ジェフリー・ディーヴァー日本滞在記(その2)


 ジェフリー・ディーヴァー氏滞在記の続きです。


 DAY FOUR:11月9日(火)
 朝、世間話をしていると、何げなく「キャサリン・ダンスの3作目を書いてるんだけどね」とディーヴァーさんがおっしゃる。
 あれっ? 007は?
「まだまだ手直しはするけれど、書きあがったんだ」と、涼しい顔で。
 えええええ! 書き上げたんなら一晩くらい休もうよ!


 この日はインタビュー合計5件。『ロードサイド・クロス』がネットがらみの話なので、インタビュワーが異口同音に「アキハバラは行きましたか?」と訊いてくる。おかげで秋葉原に行かなかったことを軽く後悔してらっしゃいました。


 夜はホテル近くのお寿司屋さんでディナー。「食べられないものとかありませんか?」との問いに「Nothing!」と力強く答えたディーヴァーさんの前にまず出されたのはイカの塩辛。一般に納豆の次くらいに《ガイジンの苦手な食物》とされてるので、「これは本当に食べ物なのか? こんなものを食べる人間の気が知れないな、トム」と、リンカーン・ライム化してしまうのでは?と心配したものの、とてもおいしい、と完食。


 前日にホテルのレストラン(どうやらバイキング)で寿司を食べたディーヴァーさん、「醤油にワサビを溶いて寿司を食べたんだけれど、周りの日本人は誰もそんなことしてなかったんだ」とおっしゃっていた。ぼくが、「海外だとみんな醤油にワサビ入れてお寿司食べてますよね。でも日本人的には不要なんス」と返すも納得してない風情でした。
 しかし、ここのお寿司を食べるや、「そうか、よいワサビをつかえば余計なワサビなんて要らないのか!」と納得。八海山を飲みながらお寿司を食べて、いい心地でお寿司屋さんを出ぎわ、カウンターで隣り合っていた白人ひとり日本人ふたりの三人組のうち、白人のかたが立ち上がり、「Hi, Mr. Jeffery Deaver, so nice to meet you!」と声をかけてきたのでびっくり。やはりディーヴァーさんは大ベストセラー作家なのです。


 DAY FIVE:11月10日(水)
 この日は都内の書店さんめぐり。弊社営業担当とともに本屋さんを回り、本にサインをしてゆきます。じつは前日にも弊社の手持ちの『ロードサイド・クロス』にもサインをしていただき、その際に、ぼくが本を開き、ディーヴァーさんがサインをし、営業担当A氏が懐紙をはさんで積む、という「サイン本製作システム」ができあがっていました。
「こんなにサインしてもらってすみません」とおっしゃる書店のかたに、「だいじょうぶ! われわれにはシステムがある、われわれはチームなのだ!」とディーヴァーさんは答え、流麗にサインをしてゆきます。2軒目ではサインをしながら、「東京の野球チームは何ていうチーム?」と訊くので、「やっぱジャイアンツですかね」と答えると、サインを見守る書店員さんに、「われわれのチームはジャイアンツと呼んでくれたまえ」と宣言。


 そんな具合で書店さんを回り、最後は丸善さんでのトークイベント。
 内容については、きっとどこかでレポートされると思いますので割愛。一編の読み物のように見事に完成されたトークで、創作の秘密を存分に垣間見ることのできる刺激的なものでした。ディーヴァーさんは「ユーモアがちゃんと通じるか不安なんだ、イタリアではギャグを発してもシーンとしてたから」と漏らしてらっしゃいましたが、見事な通訳のおかげもあって場内は爆笑の連続。サイン会では希望者全員とツーショットの写真を撮り、予定時間を超過してイベントは終了しました。


 その後は翻訳者・池田真紀子さん土屋晃さんもまじえて関係者による打ち上げ。前日、前々日は疲労気味のディーヴァーさんでしたが、この夜はすこぶる元気そうで、「読者と交流するのはすごくenergizingなんだ」とおっしゃっていました。翌日はハイヤーを借りて朝から築地に出かけ、刀剣博物館を回って午後イチには空港に入る、ということで、ディーヴァーさんは単独行動。ゆえにこのディナー後、ホテルまでお送りしてお別れ。
 ちなみにディナーの席でソムリエ氏の薦めるままに開けたカリフォルニアの赤ワインは「The Puzzle」! ディーヴァーさんとの〆のディナーにふさわしいものになりました。


 DAY SIX:11月11日(木)
 刀剣博物館見学は当初からの希望だったのですが、ディーヴァーさんの持っているガイドブックには、「わかりづらい場所にあるので近くまで行ったら誰かに訊け」と書いてあったそうで、不安がっていらしたのです。結局、ハイヤーを使ったおかげもあって、無事に刀剣博物館を観に行けたようです。
 そして成田に向かい、午後4時すぎ、日本を発ちました。


 アメリカでは、出たばかりの新刊『EDGE』のプロモーション活動が待っているのだとか。『EDGE』はノンシリーズ作品、ボディガードを主人公とした一人称のアクション・スリラー! ライム・シリーズでも「アタック=カウンターアタック」の応酬が見事なディーヴァーさんがボディガードものを書くのですから、大いに期待できそうです。



 とにかく猛烈に良い方だ!という印象を残して去っていったディーヴァーさん。ファンのかたへのサービス精神も、ずっとそばで見ていたぼくとしては、あれは心からのものなのだと断言できます。アメリカでのプロモ活動のため、今回はall works and no playで5日足らずの滞在でしたが、次回はぜひゆっくりいらしていただきたいものです。
 時間切れで見に行けなかった秋葉原と歌舞伎町、おいしい蕎麦屋うどん屋と、日本酒がたくさんある居酒屋と、あとラブホテル街とカプセルホテルへ案内申し上げますので。


文藝春秋翻訳出版部 永嶋俊一郎


クリスマス・プレゼント (文春文庫)

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