二見書房発のひとりごと(PPZ編集部ゾン子、の中の人)
「ゾン子、NYへ逝く〜新人翻訳編集者のブックフェア出張〜」
皆さーん、お久しぶりです。
忘れたころに蘇る、皆さんのゾン子です。
まだまだ御存ビないかたもいらっしゃるかもしれませんね。『高慢と偏見とゾンビ(Pride and Prejudice and Zombies)』略してPPZ編集部出身のゾン子と申します。前回、まだPPZが産声をあげたばかりの頃にリレーコラムを書かせていただきました。
お陰さまで、あの後、新聞や雑誌や書籍やブログなどでたくさんの方がPPZを紹介してくださって(皆さんイッパイイッパイ、アリガトー!)、その結果、まさかの重犯が起こり、ゾンビの名誉はある程度守れたのではないかと思っています。
しかし、魔の触手は予期せぬとき、予期せぬ場所で襲ってくるもの。重犯で若干、腑抜けのカラになっていたところに、なんと、ゾン子のNYブックフェア出張に行くことが決定していたのでありました。
カイシャ「ゾン子クン」
ゾ「(ムクリ。)お呼びでしょうか」
カイシャ「きみの(ブックフェア)デビューはもう決まった。ちなみに、今回はゾンビは1人で行ってもらうから。きみの他に逝くのは人間だ」
ゾ「え!? ゾンビが1人! お話は死ぬほどうれしいですが、そ、それは…」
カイシャ「いってらっしゃい」
ゾ「アウアウアウ…(口が三角)」
群れることの多いゾンビにとって、人間のなかにゾンビが1人、という状況は悩ましいもの。しかし、カイシャからの屍令に背くことなどできません。ここから後見人(※上屍が不参加)のいないデビュタントへの険しい道が開かれたのであった――
【注意:この物語はフィクションであり、実際の出来事とは異なり、脚色がされています】
さて、ブックフェアでゾン子のような翻訳編集者は何をしてくるのでしょう。これから出版予定の作品はどんなのがあるのかしらん、ポストPPZはないかしら、というようなことを、向こうの権利者(出版社/エージェント)と話しをし、今後検討したいものがあれば、原稿を後日送ってもらえるようお願いしてくるのです。昔はその場で版権を買ってくるということもあったらしいですが、現在はそういうケースは少なくなったようです。だから鬼気迫る商談シーンはないし、終始なごやかな雰囲気で進められることが多いから大丈夫――という旨をレクチャーされました。ザックリと。直前に。
大丈夫、と言われても、デビュタント・ゾン子にとって心肺の種は憑きません。PPZの出版元とのミーティングやら、現在検討中の作品について「ゴメーン!今は難しいNO」トカ、そんな説明をしてきてって、上屍から言われたもんだからサァ、大変。はたして生きて帰れるのか。
ゾン子、屍語はネイティブだけど、日本語も英語も外国語でままならない(スイマセン…)。おまけに、出し入れしやすいように肝は小さめにできているし…しかも、考えてみたら飛行機に乗るんじゃないか、ゾンビは国境を越えられるのか…等々。
そんな心肺をよそに、目が覚めたらNY逝きの飛行機に乗っていたのであります。
屍紋はバッチリとられつつも、ゾンビとバレないようマスク着用、空港での手荷物規制という難関もくぐりぬけ(液体の持ち込み制限で、腐敗しすぎた内臓が引っかかるのではないかという懸念があった)、無事、ホテルに到着。そういえば、その日偶然Radio City Music Hall前を通りかかったら、ものすごい人だかりに遭遇しました。なんとSex and the Cityのワールドプレミアの日だったらしいのです。どうりでレッドカーペットが。ゾン子も屍事に励みつつも、いつか運命の赤い胃トカ見つけて、女屍4人で一緒にガツガツ食らいたいものです。
そんなセレブな通りすがりをほんのり味わったらば、翌日からいよいよお屍事。
NYの場合、フェア会場に来ないエージェントや担当者も多く、そういった場合、彼らのオフィスをまわっていくことになります。ということで、次の日は1日、外まわりに出向いたのでありました。
ところがその日は雲ひとつない晴れわたる空、というより猛暑。キレイ目オフィスレディを装ったゾン子の不快度指数は鰻のぼり。化けの皮はすでに剥がれていたのではないかと思われます。そんな状態で炎天下のマンハッタンを、タクシーもしくは地下鉄で駆け回る。こういうとスマートに聞こえますが、なかなかどうして、這いつくばることのほうが多かった…。
ゾン子の場合、1日5〜6件のアポイント(ゾンビなので少なめかもしれません)。1件につき30分(ゾンビなので短めかもしれません)。どこかでミーティングが長引いたり、交通が重体すると、こんな呪いの体では間に合わない化膿性があるスケジュール、と思ったら、実際に時間通りにたどり着けないというハプニングも。
向こうのエージェントはどんな人なのか、妄想はいろいろと膨らませていましたが、皆さん基本的にゾンビに親切でした。
よっぽど「ギョッ」とした面構えだったのか、某エージェント(ロマンス)で、
「あなたって、おもしろい子ねェー」
とマダームな担当者に言われたのが今でもトラウマ、いや、思い出に残っています。(※どうやら表情が面白かったらしい。泡でも噴いていたのだろうか)
そんな外回りの1日を終えると、翌日からはコンベンションセンターでの2日間。
前日と異なり、移動がなく、ミーティングの雰囲気もなんとなく分かってきたので、内臓にも余裕がほんの少しでてきました。
会場内では著者のサイン会や講演会も多数行なわれていて、ワールド杯目前ですがBEAにはサッカーの王様、ペレ(絵本の自伝を出版)が来ていたり、ライス元国務長官(自伝を出版)やポール・オースターも会場にいたようです。そうそう、ロマンスではあのアイリス・ジョハンセンご本人がいらっしゃいました。年齢を感じさせない美しさで、しかもとても奇策なお人柄。著者とやりとりする奇怪がほとんどない翻訳編集にとってこれは貴重な場。
そしてPPZの版元Quirk社とご対面。とても可愛らしい担当さんで、日本で増殺報告をしたら「キャッキャッ」と喜んでくれました。ヨカッタヨカッタ。噂の続篇 ”Pride and Prejudice and Zombies: Dawn Of the Dreadfuls” については、PPZの映画をとても奇態しているよ、話が進めば、われわれも……とかなんとか言って殺り過ごしました。いえ、ほんとにもうちょっと映画の話が進めば化膿みたいなので……屍民の皆さん、もうしばらくご辛抱を! 「呪いは叶う」と言いますから(キリッ
PPZの破壊力は向こうでも相当なものらしく、今回も「日本でPPZを出版した会社です。」というと、皆さん目を輝かせて「じゃあ、コレを検討しないとダメよ!」と柳の下の二匹目のゾンビを紹介してくれました。皆さん人間に見えましたが、結構ゾンビ。
そんなこんなの珍道中、色々聞かれて色々不足しているゾン子は冷や体液出っ放しの場面もありました…(遠い目)。腑抜けのカラになっていたゾン子にそれはもうすごい刺激になったのは言うまでもありません。
それにしても、この場で書けないことのほうが実はハイライトだったりするのが残念でなりません。ほんと、あんなことやこんなこと…アッ、思わず白目を剥いてしまった。
また逝く奇怪があったらもうちょっと人間らしく殺りとげたいと思います…マァ、まだ墓場に戻っていなければ、の話ですけれどもネ。
そんなPPZとゾン子、今後とも乞うご奇態くださいませ。
高慢と偏見とゾンビ ((二見文庫 ザ・ミステリ・コレクション))
- 作者: ジェイン・オースティン,セス・グレアム=スミス,安原和見
- 出版社/メーカー: 二見書房
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