『ママのトランクを開けないで』(執筆者・上條ひろみ)
『ママのトランクを開けないで』
デボラ・シャープ/戸田早紀訳
ハヤカワ・イソラ文庫
- 作者: デボラ・シャープ Deborah Sharp,ヒガシマサユキ,戸田早紀
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2010/04/05
- メディア: 文庫
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それはいいとして、今回はマディ、メイス、マーティの三姉妹だ。長女のマディはとっても厳しい中学校長で、子供のころから親分風を吹かすのが得意な仕切り屋。次女のメイスは自然と動物をこよなく愛し、森林公園に勤務している。図書館司書の三女のマーティは可憐で心やさしくおとなしい性格。見事に三人それぞれの道を歩んでます。そしてなんといってもこの三人を生んだママ、ロザリーさんがすごい。娘たちの父親が亡くなるまえは農場で「有刺鉄線を張り巡らせてフェンスを作ったり、二百ポンドの子牛と格闘して焼き印を押す」などしてワイルドに生きていたのが信じられないような、少女のようにきゃしゃで可憐な南部美人で(あ、舞台はフロリダです)、結婚は都合四回、夫五号になろうという男性とおつきあい中の六十二歳。天真爛漫で突拍子もないことをしでかしながら、けろりとしているなんとも憎めない性格で、たよりなげに見えて実は芯が強い、とびきり魅力的なキャラクターなのだ。
そのママの車のトランクからなんと死体が発見され、あ〜れ〜とママは逮捕されてしまう。当然娘たちは大パニック。はい? ママが殺人犯? ちょっとあんた、どこに目ぇつけてんのよ! とワイルド系ハンサムのカルロス・マルティネス刑事にからむからむ。警察で騒ぐ騒ぐ。いやもう、このオープニングから笑いっぱなし。そんでもって最後まで笑いっぱなし。「妹は餌に群がる蠅のように男を引き寄せる。わたしはたいてい、本物の蠅を引き寄せる」といったボヤキ混じりのメイスの語りも笑わせてくれるし、母娘以外のキャラクターも超ユニークだし。舞台がフロリダってことと関係あるのかな? メイスの勤める森林公園にはワニがいて、自宅でも従兄弟とともに捕獲したワニの頭をキーホルダー(玄関に置いてあって、口のなかに鍵を置くようになっている!)にしてるんだけど、フロリダとワニといえば思い出すのはカール・ハイアセンでしょ。ハイアセンといえば奇人変人大集合。ぶっ飛んだキャラクターが目白押しではちゃめちゃな展開の本書は、ハイアセン好きにも楽しんでいただけること請け合いだ。
もちろんロマンスもちゃんとありますよ。三女のマーティはママに似てきゃしゃでかわいいタイプ、長女のマディは決して美人ではないけど幸せな結婚をしていて、メイスはその中間ということだけど、けっこうモテてます。ママに「オポッサムが這いまわって巣をつくっちゃったみたいな頭」と言われた髪を、ヘアサロンでおしゃれにカットしてもらっただけで、みんなの目つきが変わっちゃうんだから、身だしなみって大事だね。けがをした野生動物がいると放っておけなくて、アレルギーがあって猫が苦手なのに、かわいそうな猫を助けてしまう心やさしいメイスが、動物にもてることは言わずもがな。猫嫌いな彼女のところに猫はかならず寄ってくるというエピソードがわたしのお気に入りだ。蠅だけじゃなくて猫も引き寄せちゃうのね。
メイス曰く「ママとの暮らしはサーカスみたいなものよ」。いや〜、楽しそうじゃないですか。そしてママ曰く「お酢よりも蜂蜜のほうが、たくさん蠅を捕まえられる」。けだし名言です。たしかハンナ・シリーズのドロレス母さんも言ってました。でも本物の蠅を引き寄せるのは勘弁。
上條ひろみ
億万長者の殺し方教えます―ブラックバード姉妹の事件簿 (イソラ文庫)
- 作者: ナンシーマーティン,Nancy Martin,戸田早紀
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2010/02/10
- メディア: 新書
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- 作者: アラン・ブラッドリー,古賀弥生
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2009/11/20
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- 作者: ジョアンフルーク,Joanne Fluke,上條ひろみ
- 出版社/メーカー: ソニーマガジンズ
- 発売日: 2003/02
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