小学館文庫4月新刊

 

『ヒー・イズ・レジェンド』/He Is Legend
編者:クリストファー・コンロン/訳者:風間賢二、白石 朗、田中一江、幹 遙子
ISBN 978-4-09-408392-7/刊行日:2010/04/06
小学館文庫/定価 860円(税込)
 
『あなたもマシスン伝説の相続者なのだ』――瀬名秀明(本書帯より)
 
 スティーヴン・キングが「私がいまここにいるのはマシスンのおかげだ」と語り、あのディーン・クーンツが「私は作家になりたいと夢見ていたのではない。私はリチャード・マシスンになりたかったのだ」とまで畏敬する巨匠――それがリチャード・マシスンだ。その足跡は、SF、ホラー、ファンタジーといった枠を飛び越えている。一般的には、彼が原作もしくは脚本を書いた作品名を例として挙げて、その偉大さを語ることが多い。スティーヴン・スピルバーグの衝撃的なデビュー作『激突!』。近年ウィル・スミス主演で3回目の映画化となった『アイ・アム・レジェンド』、そのほかホラー映画の傑作『ヘルハウス』、クリストファー・リーヴジェーン・シーモアの名演技でいまも語り継がれる名作『ある日どこかで』等々、映画ファンならずとも驚く作品揃いだ。
 
 本書は――ひと言で言えば――そのマシスンの作品にインスパイアされ、人気作家が競作したトリビュート本である。しかし、そのひと言で言い表せないくらい内容は濃い。たとえば、スティーヴン・キングジョー・ヒルの父子が共作で「激突!」から着想を得た「スロットル」という作品を寄せている。これはタンクローリーに追われるライダーたちの物語だが、主題はリーダーの中年男性と息子の葛藤にある。キングと息子ジョー・ヒルが「激突!」の親子版を描いているというミーハー(?)的な興味を持たれるだろうが、そのラストシーンは胸に迫るものがある。その他、〈始末屋ジャック〉シリーズのF・ポール・ウィルスンが隣人関係を破壊する男を描く「リコール」は、マシスンの短篇「種子(たね)まく男」の続篇にあたる。また、マシスンの長編『アイ・アム・レジェンド』は吸血鬼に支配された地球に生き残った男を描いたものだが、その発端は主人公ロバート・ネヴィルの周りにあった……と、ミック・ギャリスは描いている。このほか、本書に収録されている作品の元になっているマシスンの作品を列挙すると『ある日どこかで』『縮みゆく人間』「陰謀者の群れ」「狙われた獲物」『地獄の家』と、いずれも名作揃いである。
 
 しかし、マシスンの原典を知らなければおもしろさは半減ということは絶対にない。当代一流の作家たちが、その力量を賭けて競作しているのである。マシスンに敬意は払っていながら、彼を超えようとする気概が全編にみなぎっている。おもしろくないわけがない。それでもやっぱり原典について知っていたいという読者は、作家・瀬名秀明氏の解説を事前に読まれるとよろしい。リチャード・マシスンとは何者か、その偉大さについて、さらには各原典と本作品との関連……と、30ページにわたる解説は、そのままリチャード・マシスン入門書になっているのである。
 
 最後に、本書に作品を寄せた作家と、彼らが寄せたマシスンの原典を整理しておきたい。
ラムジー・キャンベル(本書の序文)
スティーヴン・キングジョー・ヒル――「激突!」
●F・ポール・ウィルソン――「種子(たね)まく男」
●ミック・ギャリス――『アイ・アム・レジェンド
●ジョン・シャーリー――『ある日どこかで
●トマス・F・モンテルオーニ――『縮みゆく人間』
●リチャード・クリスチャン・マシスン(マシスンの長男です)――『縮みゆく人間』
●ジョー・R・ランズデール――「狙われた獲物」
●ナンシー・A・コリンズ――『地獄の家』
 

ヒー・イズ・レジェンド (小学館文庫)

ヒー・イズ・レジェンド (小学館文庫)