角川書店発のひとりごと(執筆者・ 角川書店第一編集部TJ)
いつもは、締め切りを設定する側の編集者。
でも、たまにこの場のように、書籍の紹介をする場をいただいたり、エッセイを書かせてもらったりすることもあります。
しかし、どうして人は、他人の締め切りには厳しく接することができるのに、自分の締め切りには限りなくやさしくなってしまうんでしょう。ほら、もう、約束の締め切りを3日も過ぎています。
こうなってくると、もう頭の中は、言い訳で一杯です。
例えば、こういうのはどうでしょう。
――昨日、家の庭に雷が落ちたんです。それはすごい音で、家中の電化製品がすべてダメになってしまいました。もちろん、パソコンも。せっかく全部書いていた原稿もパアになってしまいました。そんなわけで、原稿、遅れました。
それとも、こっちの方がいいでしょうか?
――ダチがヘルズ・キッチンの顔役と揉めてたんで、ついついそいつの顔面に22口径をぶち込んでやったんですよ。ほとぼりが冷めるまで、ちょっと隠れてましたんで、原稿、遅れました。
あるいは、こんなのはどうでしょう。
――先生に言われたんです。「《ウォールストリート・ジャーナル》に《ナショナル・レビュー》《クリスチャン・サイエンス・モニター》に目を通しなさい。ファッション面を読むんじゃないのよ。まず最初にスポーツ面、次に経済面、余裕があったら社会面を読むの。高級娼婦はね」それを読んでいたら、とても時間がとれなくて、原稿、遅れました。
少し、説得力が出てきましたか? 極めつきはこうです。
――支局員がひとり、消息を絶ったんです。バレーラに、アブレーゴ、メンデス、とにかく麻薬密売に携わっている悪党ども全員を、ひとり残らずふんづかまえなくちゃならなくて、原稿、遅れました。
一つの言い訳をのぞいてすべて、昨年の様々なミステリランキングで1位を獲得したドン・ウィンズロウ『犬の力』のエピソードです(翻訳・東江一紀氏。一部引用)ご興味を抱かれた方は、どうぞ、下記のリンクをクリックください。
そして、一つの言い訳は、かつて実際に作家さんから言われたものです。素敵! と思い、いつか自分でも使ってみたいと長年あたためていたものですが、今回、こんなところで使えるなんて、締め切り破りもやってみるものですね。
角川書店第一編集部TJ
- 作者: ドン・ウィンズロウ,東江一紀
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