2009年、私のベスト10暫定版第5回・その3(執筆者・霜月蒼)

(承前)

 以下は駆け足で。


 昨年度最強のイヤミス『制裁』の著者チームの第2作が6。前作同様に世界の醜悪さと真正面から切り結ぶヘヴィ・ノヴェル。そんなものなど読みたくないと思う向きには無理にはすすめないが、社会の暗部と切り結ぶ文学的ツールとしてcrime fictionは長く援用されてきた。本作はそのひとつの達成でもある。


 7と8はハードボイルド。コナリーの長所がきれいに出た完成度の高い7、こういうのが「現代ミステリの本道」じゃねえかという気がするのだ。『シティ・オブ・ボーンズ』と並んでコナリー流のハードボイルドとして屈指の作でもあると思う。コナリー印のプロットの急転回も見事。ガツンと昔ながらのハードボイルドを味わいたければ8。調度がダークブラウンで統一された老舗ステーキハウス@NYCのような「男の子の世界」である。オールドスクールであっても調理の手つきは繊細なのだ。妙に律儀なフーダニット要素もあるので、本格好きが読んでも感じるところがあるんじゃ?


 9はその無茶な文体を大いに楽しんだ。通常、ナマの口語は時が経つと腐るので翻訳の際に忌避されるものだが、本作ではイカレた殺人鬼の語りを2ちゃんねるのような投げやり文体で日本語化(リズム感◎)している。何から何まで狂ってるとしか言いようのない物語世界にこれが見事に合って、少なくとも2009年に読むぶんにはすばらしかった。2019年にどう受けとられるかは知らん。イカレているといえば10も相当なもの。ハイアセンの新作だと言えばもう充分だろう。それだけじゃ充分じゃないと思うひとはハイアセンの本をすぐに読むとよろしい(他に『復讐はお好き?』とか)。このひとは看過すべからざる天才なのだ。


 以上、暫定10傑。国産とは違う味を持つ傑作が揃った気がする。1を除けば読み心地の軽快なものばかりである。だが、それでも最強は1なのだ――噛み応えのあるものこそ滋味が深いのである。それは上等なバゲットや狩猟肉などを挙げるまでもなく真理だ。


霜月蒼

制裁 (ランダムハウス講談社文庫)

制裁 (ランダムハウス講談社文庫)

シティ・オブ・ボーンズ (ハヤカワ・ミステリ文庫)

シティ・オブ・ボーンズ (ハヤカワ・ミステリ文庫)

復讐はお好き? (文春文庫)

復讐はお好き? (文春文庫)