【毎月更新】文庫解説図書館【名作紹介】

クリストファー・ブルックマイア『殺し屋の厄日』その1(執筆者・杉江松恋)

殺し屋の厄日 (ヴィレッジブックス)作者: クリストファーブルックマイア,Christopher Brookmyre,玉木亨出版社/メーカー: ヴィレッジブックス発売日: 2007/04メディア: 文庫 クリック: 1回この商品を含むブログ (4件) を見る 史上最低最悪の殺人現場へようこ…

クリストファー・ブルックマイア『殺し屋の厄日』その2(執筆者・杉江松恋)

(承前) 二つめは、アメリカ製のクライム・コメディの要素だ。特にカール・ハイアセン。突拍子もない奇人が物語の中をうろつきまわり(ヒーローさえも奇人だ)、真っ直ぐに進むべきプロットをねじ曲げていくというやり方は、明らかにハイアセンの影響を受け…

マイケル・バー=ゾウハー『影の兄弟』 その1(執筆者・吉野仁)

影の兄弟〈上〉 (ハヤカワ文庫NV)作者: マイケルバー=ゾウハー,Michael Bar‐Zohar,広瀬順弘出版社/メーカー: 早川書房発売日: 1998/03メディア: 文庫この商品を含むブログ (3件) を見る影の兄弟〈下〉 (ハヤカワ文庫NV)作者: マイケルバー=ゾウハー,Michael …

マイケル・バー=ゾウハー『影の兄弟』 その2(執筆者・吉野仁)

また、物語のなかでは、兄弟の成長とあわせて、ロシアとアメリカを中心にして、今世紀に起こったさまざまな歴史的大事件が描かれている。 まず、冒頭からスターリンのユダヤ人粛清事件が、物語の重要な要素として、綿密に描写されている。バー=ゾウハーの作…

アガサ・クリスティー『謎のクィン氏』  トリックスターが演出する、愛と救いにみちた一夜の夢 その1(執筆者・川出正樹)

謎のクィン氏 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)作者: アガサ・クリスティー,嵯峨静江出版社/メーカー: 早川書房発売日: 2004/11/18メディア: 文庫 クリック: 4回この商品を含むブログ (16件) を見る 「我ら役者は影法師、 皆様方のお目がもし お気に召さずば…

アガサ・クリスティー『謎のクィン氏』  トリックスターが演出する、愛と救いにみちた一夜の夢 その2(執筆者・川出正樹)

三 この二人が初めて出会ったのは、大晦日の晩(「クィン氏登場」)のことでした。ロイストンの友人宅でのパーティーに招待されたサタースウェイト氏。新年が間近に迫る中、やがて話題は、彼らの友人で、謎の拳銃自殺を遂げた館の前の持ち主へと移り、なにや…

J・スキップ&C・スペクター『闇の果ての光』 その1(執筆者・杉江松恋)

闇の果ての光 (文春文庫)作者: ジョンスキップ,クレイグスペクター,John Skipp,Craig Spector,加藤洋子出版社/メーカー: 文藝春秋発売日: 2003/01メディア: 文庫この商品を含むブログ (3件) を見る 最初に。 この原稿を書いている段階で、本書の装丁がどんな…

J・スキップ&C・スペクター『闇の果ての光』 その2(執筆者・杉江松恋)

(承前) 地下といえば、都市伝説の宝庫でもある。いちばん有名なのが白いワニの都市伝説だろう。不要になったペットのワニを誰かが下水に流したため、それが地下で白い巨大ワニとなって繁殖するという薄気味の悪いストーリーだ。ジェフリー・ディーヴァー『…

J・スキップ&C・スペクター『闇の果ての光』 その3(執筆者・杉江松恋)

(承前) そもそも彼らはなぜ吸血鬼と戦う羽目になるのか――吸血鬼の存在に気付いたのなら、なぜ警察なり軍隊なりに通報して後を任せようとしないのか(そのことについての極めて説得力のない理由は二八三ページに出てくる)。それは彼らが「おたく」だからだ…

クレイグ・トーマス『ウィンターホーク』解説 その1(執筆者・北上次郎)

※編集部より※ 「翻訳ミステリー大賞シンジケート」では、新刊だけではなく、過去に刊行された名作の紹介も積極的に行っていきます。その一環として、現在では品切になっているなどして手にはいりにくくなった文庫の解説を再録します。新刊ではないので手に取…

クレイグ・トーマス『ウィンターホーク』解説 その2(執筆者・北上次郎)

(承前) しかし、ト−マスに現代冒険小説の書き手としてもっとも期待する私としては、それだけでは困るのである。この間のト−マス作品はすぐれたスパイ小説ではあっても、前記したように構造的に見ると冒険小説とは言いがたいのだ。 「ヒギンズよりもト−マス…