第17回札幌読書会レポート

 
 2016年最後の開催となる第17回札幌読書会を12月10日(土)に行いました。課題書はスティーグ・ラーソン著〈ミレニアム〉三部作。世界中で大ヒットを記録し、映像化もされたスウェーデンの作品です。ラーソンの死後、2015年に新たな作者ダヴィド・ラーゲンクランツの手によって発表された第四部蜘蛛の巣を払う女も話題になりました。
 スウェーデンと北海道。この組み合わせのせいでしょうか、読書会当日、札幌は12月初旬としては異例の大雪に見舞われました。JRは遅延・運休が続出、空の便も混乱し、空港で足止めされた人たちが毛布にくるまって夜を明かすニュースをご覧になったかたも多いと思います。
 そんな悪天候のなか、一人また一人と鼻を赤くし、髪を湿らせ、眼鏡を曇らせながら会場に到着する参加者たち。いきなり本気を出してきた北の大地にも負けず、一人のキャンセルもなく、無事時間通りに読書会スタートとなりました。
 初参加のお2人を含む22名が3つのグループに分かれて、まずは第一部『ドラゴン・タトゥーの女』の感想をお話ししてもらうことに(ちなみに今回のグループ名は、妙にカッコいい各巻の最終章から取って、「乗っ取り作戦/ターミネーター・モード/システム再起動」と名付けました……まあ、わざわざグループに名前をつける必要があるのか、という疑問はさておき)。
 ※もう一つちなみに、名古屋読書会で使っているのを世話人が見初めて購入した貼れるホワイトボードを今回初めて使用しましたが、これがなかなかの役立ちグッズでした。



 大物実業家への名誉毀損で有罪となり、自らが発行責任者を務める月刊誌〈ミレニアム〉を離れることになったミカエル・ブルムクヴィストは、大企業ヴァンゲル・グループの前会長ヘンリックから奇妙な依頼を受ける。40年近く前に、ヴァンゲル一族が住む孤島から忽然と姿を消した当時16歳のハリエットの行方を探してほしいというのだ。天才ハッカーにして有能な調査員リスベット・サランデルの協力を(やや強引に)得たミカエルは、調査報道の手法を使って真相に迫っていく。


「謎の引っ張りかたが上手い」「キャラクターが立っているし」「スピード感がある」「ここ10年で一番の一気読み小説」称賛の言葉が続きます。
「札幌で迎える初めての冬が、作品の風景と重なりました」
と本州から引っ越してこられたばかりのIさん。
「本格/王道ミステリーだ」「サイコスリラーやゴシック・ミステリーの要素もある」「社会問題も組み込まれていて」「読んでいるとスウェーデンの社会事情が見えてくる」「過去のナチスとの絡みも」
「でも、トリックはつまらないですよね」
おっと。まあ、たしかにトリックと呼ぶほどのものではなかったかも。
「ミカエルってずるい男」「ミカエルってバカ」「ヒーローっていうより尻軽ヒロイン?」「そもそもどうしてあんなにモテるの?」「スウェーデン版の映画ではグッタリするほどオヤジだったけど」「ハリウッド版のダニエル・クレイグならまだ分かる」
「私、スウェーデンのあのおじさんの方が好きでした……」
失礼しました。
 それにしても、〈ミレニアム〉の共同経営者エリカ・ベルジェとの恋人関係を彼女の夫も認めているとか、スウェーデンってそういうお国柄なんでしょうかね。
「たぶん違うと思う(きっぱり)」 
ですよね。 
「あったとしても例外的なケースでしょう」
「強い女が好きなんだな、ミカエル」「一人に決められない男」「これって男性の夢?」
 押し黙るメガネ男子たち&裸眼男子(今回参加の男性8人中7人が眼鏡着用でした。メガネ率87.5%)



 そ、そろそろ第二部『火と戯れる女』についてお聞きしましょうか。


 前作のラストで目にしたあることが原因でミカエルから離れることを決意した(ただし時々彼のコンピューターに侵入して動向を探っている)リスベットはカリブ海でバカンス。一方のミカエルは人身売買と強制売春について〈ミレニアム〉の特集号を準備中。そしてその調査の過程で浮上した「ザラ」という名が再び二人の運命を結びつける。


「(リスベットの旅行中の出来事を描いた)第一部が、独立した短編のよう」「素晴らしい導入」「でも本筋とは関係ないような気が」「主人公二人が再会するまで気を持たせますよね」「テーマがテーマだけに三部作のなかで一番暗くて重い」「でもこの二作目が一番好きでした」
「リスベットの過去が明らかになってくるのが興味深い」「父親との確執とか」「スターウォーズでいうと『帝国の逆襲』」
「実在のプロボクサーも登場しますよね」「金髪の巨人との対決シーンは格闘小説」
「『巨人の星』とか『タイガーマスク』」
 ん? そのココロは?
「実在の人物が出てくるから」
 まさかの梶原一騎
「女性の描き方が上手い」「ラーソンの私生活のパートナーだったエヴァ・ガブリエルソンの影響もあると思う」「かっこいい女性が多い」「ハーレーに乗るリスベット最高」「しかもラストであんな状況から○○しちゃう」「あのときの描写、好きでした」「ハードボイルドだった」
 第一部の原題「女を憎む男たち」が通奏低音になっている物語の中で、“女を憎む男たちを憎む女”リスベットを筆頭に、彼女の友人のミミとか、ソーニャ・ムーディグ刑事とか、かっこいい女性たちがたくさん登場しますよね。
「反対に男性キャラっていい人がいないような気がする」
 遠い目になるメガネ男子たち&裸眼男子。
「ミルトン・セキュリティのドラガン・アルマンスキーは?」「リスベットの元後見人ホルゲル・パルムグレンも!」
 いましたいました、リスベットを支えるいい男たちが。



 ふう。安心したところで、第二部の直後から始まる第三部『眠れる女と狂卓の騎士』に移りましょう。


 宿敵との対決で、リスベットは相手に重傷を負わせ、自らも瀕死の状態で病院に運ばれる。二人とも一命はとりとめるが、真相が明るみになるのを恐れた闇の組織が、リスベットの口を封じるために動き始める。


「著者の正義感や、民主主義への考えが三部作の中でいちばん色濃く出ている」「移民や難民であるキャラクターの背景もきちんと描いていたり」「ラーソンの意気込みや怒りが感じられる」
スウェーデンの政治的背景に馴染みがなくて少しわかりづらかったかも」「ロシアのスパイってそんなに大物なの?」「ミグ戦闘機で函館空港に着陸したソ連ベレンコ中尉を思い出しました」
「三部作それぞれにいろんなジャンルが入っていて楽しめるし、自分の好みもわかりますね」「今回はスパイ小説でもあり法廷ものでもある」「法廷シーンの壮大なドッキリ感」「追い詰める側のミカエルたちが結束したチームなのがいい」
「三作目ともなると、出てきた途端に、あ、この人ミカエルとどうにかなるなってわかっちゃう」
 わははは、相変わらずのミカエル。
「リスベットは一作目からずいぶん変わったと思う」「最後のあの決断とかね」「始めの頃、リスベットの笑顔は“いびつな”とか“歪んだ”ものだったのが、最後には“かすかな微笑”に変化してます」
 再読の際はその点もチェックですね。



 グループディスカッションのあとは全員に「次に読む一冊/作家」をお聞きしました。
 ☆ヘニング・マンケル
 ☆ラーシュ・ケプレル
 ☆ネレ・ノイハウス
 ☆北森鴻(作者の死後、婚約者が書き継いでいるのがラーソンと似て非なる)
 ☆マルティン・ベック・シリーズ (マイ・シューヴァル&ペール・ヴァールー) ※シリーズの順番通りに読んでほしい
 ☆特捜部Qシリーズ (ユッシ・エーズラ・オールスン)
 ☆『ボックス 21』(アンデシュ・ルースルンド&ベリエ・ヘルストレム)
 ☆『熊と踊れ』(アンデシュ・ルースルンド&ステファン・トゥンベリ)


 読書会が終わった頃には雪もやみ、イタリアンをいただきながらの二次会となりました。三部作、計六冊を読んだみなさん、おつかれさまでした。
 札幌読書会2017年最初の開催は3月18日(土)に決定いたしました。次回の課題書はクリストファー・プリースト『奇術師』です。多くのご参加をお待ちしています。

これまでの読書会ニュースはこちら


ミレニアム 4 蜘蛛の巣を払う女 (上)

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ミレニアム 4 蜘蛛の巣を払う女 (下)

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北京から来た男〈上〉 (創元推理文庫)

北京から来た男〈上〉 (創元推理文庫)

北京から来た男〈下〉 (創元推理文庫)

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催眠〈上〉 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

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催眠〈下〉 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

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死体は笑みを招く (創元推理文庫)

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天鬼越: 蓮丈那智フィールドファイルV

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刑事マルティン・ベックロセアンナ (角川文庫)

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特捜部Q―吊された少女― (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

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ボックス21 (ランダムハウス講談社文庫 ル 1-2)

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熊と踊れ(上)(ハヤカワ・ミステリ文庫)

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熊と踊れ(下)(ハヤカワ・ミステリ文庫)

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