第10回熊本読書会レポート(執筆者・吉村栄師)

 
 このレポートが公開される頃には、熊本もすっかり秋めいていることでしょう。
 去る8/27に行われた第10回熊本読書会。

中途の家 (角川文庫)

中途の家 (角川文庫)


 ゲストの越前さんについては、改めて紹介するまでもないと思いますが、読書会では第2回目の『さむけ』に続いて2度目の来熊。
 ちなみに当時の参加者は6人と、部屋に寒気がしたとかしないとか。
 今回は記念すべき10回目、過去最多の17人の方々にご参加いただくことができました。
 初参加の方々に加えて、司書さん、書店員さん、福岡の世話人の大木さん他、顔ぶれも多彩です。


 さて、参加者の到着を待ち、15分ほどおした読書会ですが、先般の熊本地震で私を含め、多くの参加者が車中泊や避難所生活を経験し、引越しを余儀なくされた方、中には職を失った方もおられ、あらためて被害を実感しました。こうして読書会を再開できること、皆様のご支援に感謝しつつスタートです。


 越前さんの存在で緊張感が増したのかもしれませんが、勘所やなぜそうなのか? といった部分を丁寧に説明していただくと、一同納得。
 特に本書は、読者への挑戦ということで、犯人当てに挑んだ方もおられたようで、初めて犯人が分かったという方もいらっしゃいました。


 以下、(E)は越前さんによるコメントです。


・国名シリーズが好きだが、伏線に見事にひっかかった。
――犯人への手がかりもあれば、ミスリードさせる箇所も含め、飯城勇三さん(エラリー・クイーン・ファンクラブ会長)のチェックが要所要所に入った。(E)


・前回の課題書(『僧正殺人事件』)は難しかったけど、本書は読みやすかった。
――ヴァン・ダインと比べると、ペダンティックではないところも影響しているのではないか。(E)


地震後のいいリハビリになった。緑の○○○のくだりはアンフェアかなぁ。
――メイントリックには無理がなくもないけど、ある程度はお約束を受け入れましょう(笑)。(E)


エラリー・クイーンは初めて。新本格の作品を読んだ後だったが、前に読んだことがあるような懐かしい感じがした。
――社会派として知られる松本清張の某作品と似通っている、とも。(E)


エラリー・クイーンは読破済み。消去法で犯人がわかった。クロロホルムの使い方が残念な(用法がちょっと違う)気がした。
――砒素、ストリキニーネ、青酸カリなど、この時代はこういう毒物の小道具が多いよね。(E)


・裁判のシーンで、証拠が薄弱なのに有罪になってしまう陪審員制度はどうなの? と思った。


・事件の動機が弱いと思い、保険金目当ての説なども検討してみた。ガソリンスタンドのシーンは無理があるような気がする。
――大阪などでは別の真犯人を指摘する人もいるので、熊本でもやってみたら?(E)


・まえがきの、チェスタトンやブラウンが登場する記述がミステリおたくっぽい。


・深く考えずに映像を浮かべながら読んだ。読みやすかった。雰囲気やいろんな意見がきけてよかった。
――ヤマ場のために重要な登場人物のしゃべり方を意図的に変えて訳した。性別の訳し方については、慣れた読者相手では深読みされてしまう恐れもあるので、特に注意深く処理した。(E)


・英語の本をよく読むが、日本語に訳すのが難しいだろうなと思い、翻訳者さん達のご苦労がわかった。ロマンスも入ってて読後感もよかった。


・二章〜三章あたりから面白くなった。久しぶりに本格ものの論理的な謎解きを楽しめた(証人の証言が嘘かもしれないという、いわゆる後期クイーン問題をクリアしている点に好感を持てた)。
――できれば〈読者への挑戦〉より前段ならなおよかったかも。(E)


・三章を読んでエラリー・クイーンが好きになった。被害者は何のために同時刻で待ち合わせしたのかが最後まで腑に落ちなかった。
――作者の論理で推測すると、身バレした被害者はヤケクソだったのではないか。(E)


・“嘆きの橋”という言い回しは実際にあるのか気になった。


・犯人は気が弱いよね〜(一同苦笑)


 世話人的には淡白で物足りない感じの課題書『中途の家』でしたが、レギュラーキャラが殆ど出てこないので、初めての方にもオススメということでした。
 そして本書の次に読むならということで、『災厄の町』の名前が挙がりました。


 休憩を挟んで、会場のスクリーンを使って第2部のエラリー・クイーン翻訳秘話ダイジェスト。
 時間の都合で少々駆け足になってしまいましたが、過去の版との違いについての説明や、訳語の選び方、共訳での進め方、本書『中途の家』がどうしてプラスワンなのか、といった点についても、なるほどと頷けるところが多く、非常に有意義でした。
 今回、翻訳者ご本人からこのような話が聞けたのは、今後の読書においても参考になるのではないでしょうか。
 なるべく皆さんにお話ししていただけるよう努めましたが、正直3時間では足りないくらいでした。


 懇親会は、某書店から合流された書店員さんの他、急遽3名の方が加わり大所帯の飲み会となりました。
 おそらく各所で読書談義に花が咲いていたのではないかと思いますが、私は幹事席にいたので詳しくは分かりません。
 宴もたけなわとなった後、越前さんは某書店へ出向いて、担当者の方に翻訳小説のプロモーション。
 結局、一時間近くいたでしょうか。
 最後は世話人オススメのラーメン店でお別れとなりました。


 翌日、世話人は越前さんと被災地一帯(益城〜南阿蘇)を訪れましたが、それはまた別の話ということで。


 最後になりますが、この度の来熊を快諾していただきました越前さんに感謝し、結びとさせていただきます。
 また次回、お会いいたしましょう!

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さむけ (ハヤカワ・ミステリ文庫 8-4)

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災厄の町〔新訳版〕 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

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