蔵出し引き継ぎ名古屋読書会レポート・その1(執筆者・大矢博子・片桐翔造)

 
全3回/その1 第12回オリエント急行の殺人』


大矢:人類がこの世界に誕生したのは6千万年前と言われています。月になおせば7億2千万ヶ月です。その悠久の歳月を思えば、14ヶ月の違いなんて……と、既視感のある出だしを書いて自分でびっくりした。名古屋読書会のレポをさぼったまま、なんと1年以上経ったのか。そういや第12回読書会の二次会で結成された名古屋読書会登山部が、こないだ一年越しの悲願だった富士山登頂を成功させていた……。これはまずい。忙しいとか言ってる場合じゃない。


 ということで、これを機に名古屋読書会レポは、次代のホープに引き継ぎます。新担当者の紹介を兼ねて、溜まってる3回分を片付けましょう。あのあたポン「水星どーん!」でお馴染み、片桐翔造さんです! まずは昨年7月26日に行われた第12回のレポから、さくっとバシっとやっちゃって♪


片桐:ご紹介にあずかりました片桐です。14ヶ月、たしかにそう言われると短いような気もしますが、「誰かさんが熱海で敗北者の烙印を押される前」と考えると「あれ? 結構昔じゃないか……?」という気がしてきますから、なんとも不思議なものですね。


 さて、第12回名古屋読書会。課題本はアガサ・クリスティーオリエント急行の殺人』でございました。ポアロもののなかでも超がつくほどの有名作ですが、一応あらすじを紹介しておきましょう。ヨーロッパを横断する豪華列車、オリエント急行。積雪のため一時立ち往生した日の翌朝、乗客の一人が、十数回も刺された無残な死体で発見されます。偶然乗り合わせた名探偵ポアロは真相究明に乗り出しますが、乗客たちは皆アリバイがある上、外部からの侵入も不可能と目される状況。混迷を極める列車の中で、ポアロは二種類の推理を披露します――。


大矢:この回には、浜松で20年にわたってミステリ専門の私設図書室「アガサ」を主宰されていた庵原直子さんをメインゲストに、文芸春秋から永嶋俊一郎・別宮ユリア両編集者もご出席くださるという豪華な布陣でしたね。


 また、3班に分かれてのチームディスカッションはこれまで通りだけど、チーム司会を、大矢・加藤・片桐という従来のメンツから他の人へ引き継いだという点でも、名古屋読書会第2期がスタートした記念すべき会と言えるでしょう。新司会の敦子さん・びりぃさん・三津代さんが完璧な活躍を見せてくれて、安心して眺めてました。24時間テレビで司会をするHey! Say! Jumpを見つめるニノって、きっとこんな気持ちだったと思うわ。


片桐:読んでいなくともネタだけは知っている方も多かろう本作ですから、出てくる感想もそれに絡んだもの中心でした。多かったのはやはり「知らない状態で読みたかったなあ」「ネタバレ食らうと1番ツラいのがこれ」という意見でしたが、反面「細かいとこ忘れてたから逆に新鮮だったよ」「最初から伏線張ってあるから再読でも楽しめたし!」というポジティブなものも。結局「ネタバレ知らずに読めたぜ!」という人には思わずみんな「うらやましい……」と声が漏れてしまったことであります。「本作含め、クリスティーであらゆるミステリのパターンを知れた。クリスティーはミステリ界のビートルズや!」という一言も印象的でした。


 忘れている人や知らなかった人も多かったラストシーン。「そんなのありかよ、となった」「まぁ、あくまでポアロは私立探偵だし。それにさ、ここから『カーテン』に繋がっていくわけよ」「ああ……!」「あとリンドバーグの息子誘拐事件が背景にあるわけで、当時の読者は満足したんじゃない?」「なんか『ち


大矢:ちょっと待ったーーーーー! その『ち』で始まる言葉はネタバレでしょダメでしょ書いちゃ! そりゃ確かにこの回の白眉たるキーワードではあるけども、ネタばらしは親殺しに次ぐ大罪と心得なさい。あ、でも今年のお正月に三谷幸喜脚本のドラマ『オリエント急行の殺人』が放送されたとき、犯人側から描いた第2話で、まさにその『ち』に準ずるセリフが出てきたときは、読書会参加者のツイッターが沸騰したよねえ。読書会でも「犯人側から見てみたい。きっとドタバタしたはず」という意見があっただけに、あのドラマは「三谷さん、名古屋読書会覗いてた疑惑」まで浮上したっけ。そして何より、ヘクター役をやったニノが可愛くて気持ち悪くてステキだった……。あたしはニノ担なんだけど、片桐くんは嵐では誰担?


片桐:嵐はちょっとモンガイカンなもので……。登場人物については、個別に感想が多かったのはわれらがベルギー人の小男(もちろん名探偵ポアロのことですよ、モナミ)。「小太りでダルマさんっぽいイメージがあったけど、実際読んでみるとそうでもない」「人間味がないと思ってたけど、喉乾いたりしてるし人間っぽい」「意外とモナミって言わなかった」といった、ポアロに抱いていた印象がちょっと崩される、そんな作品でもあったようです。他の登場人物では、「デベナムさんとアーバスノット大佐の恋の行方はどうなるの!?」というのがロマンス読みからの感想。2人は序盤から出ていますし、確かにそれは気になりますね! 


大矢:おっと、それはネタバレ……にはならないか。そこまでなら大丈夫か。ふう、なかなかネタバレラインの難しい作品ですなあ。あ、あとほら、『ち』に並ぶキーワードとして「夏にやれば良かったのにね」という、作品の大前提を正面突破する名言が出たことを付け加えておきましょう。それ言い出したらもう、すべてがダイナシです(笑)


片桐:あれは台無しでした。


大矢:なんか淡々としてるなあ、片桐くん。あの「水星どーん!」の勢いはどこ行った? 次回からはレポ書く前にウォッカ引っ掛けてらっしゃい。


片桐@素面:恒例の「次に読む一冊」は、鉄道つながりでクリスティー『春にして君を離れ』『パディントン発4時50分』オリエント急行が舞台のグレアム・グリーン『スタンブール特急』。日本の鉄道ミステリから西村京太郎『終着駅殺人事件』『ブルー・トレイン殺人事件』などが挙げられました。


大矢:ちなみにオリエント急行のように個室の前に側廊がついて個室間を行き来できる車両は、当時のヨーロッパではまだ珍しかったのよ。それまでは各個室が完全に独立してて、個室から直接ホームに降りるタイプの車両が普通だったの。新しい特急や車両が出たらとりあえずミステリに使っちゃえ、というのはまさしく西村京太郎に通じるかもしれません。ってことは、ポワロは十津川警部。いいのかそんな結論で。


 ということで、次回は2月に行われた第13回ウィンブルドン読書会のレポを更新予定。お楽しみに!


大矢 博子(おおや ひろこ)


書評家。著書にドラゴンズ&リハビリエッセイ『脳天気にもホドがある。』東洋経済新報社)、『読み出したら止まらない! 女子ミステリー マストリード100』(日経文芸文庫)、共著で『よりぬき読書相談室シリーズ(本の雑誌社)などがある。大分県出身、名古屋市在住。現在CBCラジオで本の紹介コーナーに出演中。ツイッターアカウントは @ohyeah1101

片桐 翔造(かたぎり しょうぞう)


ミステリやSFを読む。サンリオSF文庫総解説』本の雑誌社)、《SFマガジン》(早川書房)「ハヤカワ文庫SF総解説」に執筆参加。たまに書評同人を作る。名古屋市在住。
ツイッターアカウント: @gern(ゲルン@読む機械)

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