『誘拐の掟』公開記念読書会のお報せ(執筆者:杉江松恋)【再掲】


 以前に告知いたしましたローレンス・ブロック読書会の詳細が決定しました。

 
[日時] 2015年5月13日(水) 開場・19:00 開始・19:30 (約2時間を予定)

[出演] 杉江松恋(ライター・書評家) 田口俊樹(原作「獣たちの墓」訳者)

[会場] Cafe Live Wire (Biri-Biri酒場 改め)
     東京都新宿区新宿5丁目11-23 八千代ビル2F (Googleマップ
    ・都営新宿線「新宿3丁目」駅 C6〜8出口から徒歩5分
    ・丸ノ内線副都心線「新宿3丁目」駅 B2出口から徒歩8分
    ・JR線「新宿」駅 東口から徒歩12分

[料金] 500円(終了後懇親会あり) 

 お申し込みはこちらまで。

 ローレンス・ブロック・ファンよ来たれ!


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【記事再掲】

 こんにちは、杉江松恋です。


 すでにご存じの方も多いと思いますが、マット・スカダー・シリーズの第10長篇『獣たちの墓』が映画化され、日本でも「誘拐の掟」のタイトルで5月30日に公開が決定しました。
 監督・脚本は「ゲット・ショーティ」「アウト・オブ・サイト」などのエルモア・レナード原作で脚本を手がけたスコット・フランク、気になる主演は「シンドラーのリスト」「96時間」などの作品で知られるリーアム・ニーソンが演じています。1952年生まれで撮影時は62歳、原作よりは少し年が上で落ち着いた雰囲気が好ましく、むしろ『死者たちの長い列』以降のスカダーに似つかわしい気もします。映画の冒頭では刑事時代のスカダーも演じ、彼が警察官を辞めるに至った事件も再現しています。過去にはハル・アシュビー監督の「800万の死にざま」で当時37歳のジェフ・ブリッジスもスカダーを演じていますが、あれは逆に元気すぎたかもしれません。今回のリーアム・ニーソンは、原作ファンが観れば、100人中99人が喝采を送るのではないでしょうか。そうそう、スカダーってこんな感じだよ。


 映画「誘拐の掟」公式サイト


 予告映像もYoutubeに上がっています。



 というわけで今回、映画公開を記念して、原作『獣たちの墓』読書会を開催したいと思います。
 お申し込みのURLなどは後日発表(まだできていません)、取り急ぎ、


 5月13日(水)19時半〜 於:新宿5丁目 Cafe Live Wire
 司会:杉江松恋 ゲスト:田口俊

 ということで日時と場所は決定いたします。
 肝腎の課題作ですが、新装版が4月20日に発売予定なので、お持ちでない方はこの機会にぜひどうぞ。


 さて、念のためにローレンス・ブロックのマット・スカダー・シリーズについておさらいしておきましょう。
 スカダーはニューヨーク市警の警察官でしたが、あるとき自分の過失によって人が死んだことに責任を感じ、職を辞します。以降はもぐりの私立探偵として活動をしていましたが、自身が深刻なアルコール依存症であることに気づき、『八百万の死にざま』以降の作品ではその問題に正面切って立ち向かうようになりました。
 したがって第1作『過去からの弔鐘』から第5作『八百万の死にざま』までがシリーズの第1期といえます。過渡期といえる『聖なる酒場の挽歌』『慈悲深い死』の2長篇を経て、第8長篇『墓場への切符』からシリーズは変わり始めます。


『墓場への切符』『倒錯の舞踏』(MWA最優秀長篇賞)『獣たちの墓』の3作は、私立探偵小説に新機軸を開いた作品でした。ここで描かれたのは、個人である探偵が、私人としての限界を超えるほどの巨大な暴力に直面したときにいったい何だできるだろうか、という問いです。『墓場への切符』では探偵に復讐心を燃やすサイコ・キラー、『倒錯の舞踏』では性的興奮を得るために人を殺し続ける異常者、そしてこの『獣たちの墓』では誘拐殺人の常習犯がスカダーの前に立ちふさがります。
 そもそも第1期の作品でもスカダーは、司法の網の目から逃れている者に私的な制裁を加えることが珍しくありませんでした。この3作では、その問題がより端的な形で示されることになったのです。思えば1980年代後半からの10年間は、私立探偵小説の内容に大きな変動が見えた時期でした。人捜しのプロットを中心としていた私立探偵小説は「個人が正義をなしうるのか」という、より直截的にヒーローの存在意義が問われる主題へと大きく舵を切っていたのです。その中でもっとも端的な形で答えを示したのが、ローレンス・ブロックのマット・スカダー・シリーズであったと私は考えます。
 その主題転換をになった重要な三部作の掉尾を飾るのが、このたび映画化された『獣たちの墓』であったわけです。『獣たちの墓』について考えることは、同時に1980年代の私立探偵小説、ネオ・ハードボイルドと呼ばれた作品群を考えることにもつながります。ぜひこの機会に、私と一緒に『獣たちの墓』を読んでみませんか?


 賢明なみなさんはすでにお判りかと思いますが、実はこの読書会は4月25日の翻訳ミステリー大賞贈賞式後に行われる企画「ネオ・ハードボイルド作家・探偵の月旦」とも連動しています。よかったら併せてご参加ください。


 なお読書会では、予告篇よりももう少し長めに映画の一部をご覧いただける予定です。したがって会は、原作について話し合うだけではなく、映画化作品の予想会も兼ねることになります。たとえば、


 『獣たちの墓』はスカダーがエレイン・マーデルと同棲を始める前の物語だが、エレインは果たして映画に登場するのか。


 時代設定は1999年になっているが、9.11前のニューヨークはどのように描かれるのか。


 携帯電話やインターネットがまだそれほど普及していなかった時代の話である原作をどうやって現代化するのか。


 そして、何よりも大事なこととしては、スカダーはきちんとアルコール依存症として描かれるのか。


 などなどと。こちらはネタばらしはしませんので、ぜひ集まったみなさんに予想を立てていただきたいと思います。
(これは書いてもいいとおもうので書いちゃいますが、TJは出ます! どうぞお楽しみに)


 そんなわけで、ファンのみなさんとマット・スカダー・シリーズについて語り合うことを楽しみにしております。
 どうぞふるってご参加くださいませ。


八百万の死にざま (ハヤカワ・ミステリ文庫)

八百万の死にざま (ハヤカワ・ミステリ文庫)

聖なる酒場の挽歌 (二見文庫―ザ・ミステリ・コレクション)

聖なる酒場の挽歌 (二見文庫―ザ・ミステリ・コレクション)

慈悲深い死 (二見文庫―ザ・ミステリ・コレクション)

慈悲深い死 (二見文庫―ザ・ミステリ・コレクション)

墓場への切符―マット・スカダー・シリーズ (二見文庫―ザ・ミステリ・コレクション)

墓場への切符―マット・スカダー・シリーズ (二見文庫―ザ・ミステリ・コレクション)

倒錯の舞踏 (二見文庫―ザ・ミステリ・コレクション)

倒錯の舞踏 (二見文庫―ザ・ミステリ・コレクション)