第17回(シンジケート後援第7回)せんだい読書会レポート(執筆者・暮尾)
せんだい探偵小説お茶会は、2月22日に第17回となる読書会を開催しました。
対象書籍には、約百年前のフランスの新聞上で連載、刊行され、今も多くのミステリ読者、特に密室マニアには必読とも思えるガストン・ルルー の『黄色い部屋の謎(秘密)』を選定、お菓子の時間を三十分ほど過ぎた頃に世話人のM氏の一声で始まりました(以降、ネタを割っている箇所が一部あるため『黄色い部屋』未読の方はご注意ください)。編集部註:ネタが割れていると思われる部分を反転処理しました。
自己紹介を済ませる一同。『黄色い部屋』の続編にあたる『黒衣婦人の香り』は、出版社さんで取り扱われていないことを理由に今回は課題書籍から除外していたのですが、事前に読んでこられた方が多く、また、インターネットを通じて購入を計画している方もいらっしゃり、参加者のミステリへの情熱を感じました。
ホストを務めたわたし、M氏、福島から参加され、三年前の東西ミステリーベスト100海外編で『黄色い部屋』を一位に投票されたS氏が持参したお菓子の紹介も終わり、読書会の本題となる、自由に感想を伝えていただく時間へ。
初めて読んだ大人向けミステリ、海外作品という思い出深い声もあれば、読了まで時間を費やした、内容が頭に入ってこなかったという声も。かくいうホストの自分も、初読時はすんなり進まなかったというのが正直なところです。
しかしながら、新訳という新たなかたちで多作家の作品が世に受け継がれようとされる昨今、『黄色い部屋』の文体は、冗長さは否めないものの、ルールタビーユの持ち出す事実、断定的な台詞、傍点、言い回しといった要素は、再読時には異なる輝きを放ち、文体のリズムに慣れるとより味わい深く感じられることと思います。
『黄色い部屋』が翻訳ものであり、また約一世紀前のフランスの小説であるという二点を考慮しない場合、ホストの私見としては、この作品で綴られる文章そのものは、現代の視点で見つめてみると、初読よりもむしろ再読向きに書かれているように感じてなりません(創元推理文庫版を参考としています)。
内容については、物語全体としてのおもしろさや、その中でも皆さんが印象に残ったシーンを各自発言され、わたしを含む参加者のまさに十人十色の感想・批評を聞くことができ、ホストとしてはまことに楽しく、大いに参考となり、感謝しております。
三つの事件について話が及ぶと、第二の事件が三つの中では好きと答えた方が多く、また個人的に最も関心を寄せていた、黄色い部屋で起きた密室の解明については概ね好意的な意見をいただいた反面、【反転開始】スタンガースン嬢の首に残った手形の隠し方や、第二の事件において二秒間で果たして可能なのか等、現実に即した細部の疑問点について議論がされる中、最終的には<ラルサンだから>という犯人の万能性を結論とした後【反転ここまで】、参加者の方には開会後に急遽告知した「好きである、印象に残っている密室もの」を各々あげていただきました。この場では一部抜粋してご紹介したいと思います。
・エラリー・クイーン『チャイナ橙の謎』
・大阪圭吉『灯台鬼』
・クリスチアナ・ブランド「ジェミニー・クリケット事件」
・ヴァン・ダイン『カナリヤ殺人事件』
・カーター・ディクスン『ユダの窓』『白い僧院の殺人』、ジョン・ディクスン・カー『三つの棺』『妖魔の森の家』
・島田荘司『斜め屋敷の犯罪』
・泡坂妻夫「ホロボの神」
・デレック・スミス『悪魔を呼び起こせ』
・ジョン・スラデック『見えないグリーン』
・横溝正史『本陣殺人事件』
・ロナルド・A・ノックス「密室の行者」
最後に、黄という色には込められた意味があると仮定した上で、ホストなりの考察を発表させていただきました。
意味の有無は作者であるガストン・ルルーのみぞ知るというのは先刻承知、サフランという花、サフラン色についての説明から、黄色の心理効果、参考文献となった福田邦夫『ミステリーと色彩』の内容をもとに披露したものの、ルールタビーユのような弁舌とはいかず、脆弱な論理であることを、わたし自身、発言しながら感じていましたが(笑)、読書会の余興として参加者の皆さんの心に少しでも留まれば幸い、というところであります。
最後まで目を通していただき、ありがとうございました。
これまでの読書会ニュースはこちら
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