埼玉読書会レポート前篇(執筆者・縁側昼寝犬&東野さやか)

 みなさま、こんにちは。去る6月28日、第6回埼玉読書会を開催いたしました。今回の会場はおひさしぶりの熊谷です。課題書はダン・ブラウン『デセプション・ポイント』(越前敏弥訳/角川文庫)を取りあげ、訳者の越前さんにもお越しいただき、和気藹々とした楽しい会となりました。


 このところ、忙しさを理由にレポートをサボっていたのですが、常連さんのひとり、縁側昼寝犬さんが見かねて執筆を申し出てくださいました! はい拍手ぅ〜。や、しかし、読書会でもなんだかんだこき使っておいて、レポートまでお世話になっては申し訳ない。でも、あの場の雰囲気を参加者目線でお伝えするのも一興かと思い直し、おまかせすることにいたしました。


 まあ、そんなわけで、おんぶに抱っこのレポートをお届けいたします。




デセプション・ポイント〈上〉 (角川文庫)

デセプション・ポイント〈上〉 (角川文庫)

デセプション・ポイント〈下〉 (角川文庫)

デセプション・ポイント〈下〉 (角川文庫)



 今回の場所は熊谷ですが、小糠雨ということもあり、“暑い熊谷”はまだウォーミングアップ中。駅前の冷却ミストも休業状態(本気で暑くなるとこうなります。→ http://www.city.kumagaya.lg.jp/appare/appare/
 まだ6月だしね、これからよ。


 熊谷駅に近いいつもの会議室ではなく、世話人東野さんのお知り合いのお寿司屋さんをお借りしました。昭和の匂いのする建物の2階で、畳の上に黒い木の机と椅子が置かれ、口の字に会議テーブルが並ぶのとは違って前の人と手が繋げるくらい近い。(注:実際に手はつないでません)


“熊谷まで集え、勇者たちよ”との呼びかけに、えいやっと手を挙げた参加者は10人、プラス主催者の東野さんとゲストの越前さん。参加者の内、紙の本で読んだ人と、Kindleで読んだ人は半々くらい。男女比も半々。
 取り敢えず自己紹介しつつ、感想を一言ずつ言ってる内に、遅れてた人が到着。お初の方も、常連さんも、改めてよろしく。


【感想】
・出版してから年数が経っているので、時代の差が出ている。(原書は2001年出版)
・冒頭、SFかと思ったら、陰謀説が出てきたのでSFじゃないのね、と分かった。
・本の裏表紙についているあらすじを読んだだけで、発端となる事件の真偽がわかる(鋭い……)。
・法螺話をするには大きく、というのが定説なんだけど、この法螺話の大きさは充分。捏造が判明した後の話がうまい。
・上巻はちょっと手こずったけど、下巻は一気に読めた(複数同意見あり)。
・登場人物の内、誰が味方で誰が敵か分からなくてハラハラした。
・ハリウッド映画みたい。ヒロインがいて、トーランドというイケメンがいて、という人物配置もそうだけど、解釈の幅がなくて、先の展開は読めないけど、次の展開は読める。「崖から落ちたー! 下に棚があった! セーフ、ってまさにハリウッド映画」(一同大笑い)
・スケールの大きな話は久々。よくリサーチしてる。
・章立てが短くて展開早くていいんだけど、もう少し腰を据えて読みたい。
・小説がうまい。読むのが止まらなくなる。
・大体、こういう小説に出てくるアジア系って、有能だけど愛想悪くてコミュニケーション下手で嫌われ者で、そして30ページまでに死ぬ。今回もまたか。(一時期のエミリオ・エステベスみたいな感じ? 映画が始まって10分で死亡する役をよくやってたような記憶があります)
・最後のラブシーンの終わり方は蛇足でない? いらなくない? (これについては頷く人多し)


 そしてその感想に越前さんから解説が入り、話は膨らんでいきます。


ダン・ブラウンという作者は、“謎の組織と、それに狙われる美女を書かないと死んじゃう作家”なのです」
 これには参加者全員大爆笑。
「ラングドン・シリーズでもそうだし、この『デセプション・ポイント』もそう。その構図は変わらない。だけど、ガブリエルとレイチェルという女性二人が主役、というのは他のダン・ブラウン作品にはない。『ロスト・シンボル』なんて女性が一人も出てこないし。二人の主役は、政治的にも生き方も対極にあるのだけど、二人とも生き生きとしていて、感情移入ができて、そこがダン・ブラウンの作品の中で一番好き」
 なるほど。
「ガブリエルもレイチェルもファザコン」(一同爆笑)


 参加者もそれぞれ登場人物にごひいきがあるらしく、コーキーは特に大人気。単なる引き立て役にするには惜しい人材。何しろ海に落とされて、命の危機の時にあの逃げ方は、知識過剰なコーキーならでは。
 コーキーが出てくるたびに、私としてはアメリカのTVドラマ『ビッグバン★セオリー』の主役レナードを思い出してしまいました。彼もコーキーみたいに頭はとてもとてもいいけど、周囲と人間関係を築くのが難しくて、かなり世間からずれてるし、自分が気に入った異性は相手も自分を好きだと思い込む不治の病にかかっている(困ったもんだ)。
 このコーキー、越前さんがいうには、「著名な学者なのに学術的なことを知ってるようで知らないこともある。それは著者が読者に説明するためなんだろうけど」とのこと。
 他には、元気のある威勢いい女性が何名か登場してくることもあり、それぞれが参加者には人気があったのですが、その割にはあっさりと……ということもあり(なむー)。


・「レイチェルは誰とくっつくかと思ったら」「誰って、誰が候補?」「ピカリング」「ああ、そうか、それもありか」「コーキーとはないわ」「ないわー」
・「最後はいらないよね」「あんなに人がばんばん死んでるのに、にこにこしてハッピーエンドはどうなのかしら」「映画のエンドロールだと思ってもらえればいいかな(越前さん)」
・「登場人物の不死身さが凄い。死にそうになりながらも最後のシーンであれって、よく体力あるよね」(私が思いますに、日本人だと多分、氷棚(こおりだな)で力尽きます。基礎体温も高い肉食アメリカ人だからできるんじゃないでしょうかね?)
・「デルタフォースがしょぼすぎ」「素人にやられるし、撃たれるし、落とされると思ったら本当に落とされるし(越前さん)」
・「事件の発端の解説がうまいですね」「でもワラジムシをうっかり検索すると、スゴイ画像が出てきておぞぞってなります」(危険注意!
・「テンチって元国務長官のライスさんみたいだねぇ」(同意者多し)
・「大統領が敵か味方か分からないよね」(私も分かりませんでした)
・「黒幕が最後に観念しちゃってますよね」「あれはダン・ブラウンならではの悪役の立ち回りです。愛してたんでしょうね(越前さん)」「ほほ〜」(一同にやり)
・「これは映画になるんですか?」「話はあったみたいだけど、NASAを批判すると映画にならないらしい(越前さん)」
・「この件、捏造がばれて大統領はどうしたんでしょうね」「さぁ、でも論文書いてないから、まだ大丈夫」「あれのことですね」「あれです」
・「これって上巻は、一日での出来事ですよね」「ダン・ブラウンは“あと1分”ってところで回想シーンが入って何ページもあったりします(越前さん)」


 “あと1分”のくだりについては巨人の星の例で説明されていたようですが、その辺りを私風に解釈しますと……


 星飛馬が大リーグボールを投げようと片足を「ズザザザ…」と効果音つきで青空よりも高く上げ(今だと東京ドームの天井か)、バッターボックスでは「来い、星君!」と花形満が構えて瞳の中で炎を燃やし、魔球を編み出すまでの筋力養成ギプスとか父ちゃんの卓袱台返しが飛馬の脳裏に浮かび、やがて投げられたボールが花形満のバットをかいくぐってキャッチャーミットに届くまで放送1回分とか、そんな感じですかね。


 その後、話題はダン・ブラウンのフォーク歌手の経歴やら、ハリウッドの親切心と同じで“全て見せる、後出しはなし”の構成や、NASAの捏造事件や大誤報から、元軍人の告白本と守秘義務の関係や、“メンデルの遺伝子の法則いまさら検証それやめて”や、“マゼラン海峡は今やマゼラン海峡という名称ではない”という話題で盛り上がりました。






 いや〜、いま読んでも当日の模様が目に浮かびます。今回の会場は参加者同士の距離が近く、それもあってかいつも以上に活発に、ポンポンと意見が飛び交いました。レポートはまだつづきます。後篇をお楽しみに。

これまでの読書会ニュースはこちら


インフェルノ (上) (海外文学)

インフェルノ (上) (海外文学)

インフェルノ (下) (海外文学)

インフェルノ (下) (海外文学)

ロスト・シンボル (上) (角川文庫)

ロスト・シンボル (上) (角川文庫)

ロスト・シンボル (中) (角川文庫)

ロスト・シンボル (中) (角川文庫)

ロスト・シンボル (下) (角川文庫)

ロスト・シンボル (下) (角川文庫)