第1回神戸読書会レポート
台風が神戸を直撃すると予想されていた2013年10月25日(金)が第1回神戸読書会でした。直前まで千葉読書会のキャンセル方法が参考になるとか、キャンセルを出す時期は?と世話人の間でさんざん迷いました。が、数日前の翻訳家の越前敏弥氏の「できれば二次会もやりましょう」という前向きなメールに背中を押され、やっちゃえ!と決行したのが大吉、うまく台風はそれていきました。
募集後すぐに満席になった参加者は徳島、京都、大阪と遠方の方も多く、東京からの越前氏と何ともバラエティ豊かな顔ぶれでした。
- 作者: スティーヴ・ハミルトン,越前敏弥
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2012/12/09
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第6回福島『解錠師』読書会レポート
Uさんに作成していただいた場所と時間軸の表がとても頭に入りやすく、あるピークを超えると活動の幅が収束していくさまは『アルジャーノンに花束を』のようだ、とか、10代のナレーションはサリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』を彷彿とさせるとか、ロードノベル的な感じはケルアックの『オン・ザ・ロード』みたい、などみなさんいろいろなイメージをお持ちでした。
映画にするならマイクルには誰をキャスティングする?という質問には嵐のニノ、小池徹平、エズラ・ミラー、『キック・アス』のアーロン・ジョンソン…18だけど中坊のような童顔ならマイケル・J・フォックスとか、ディカプリオの少年期、デイン・デハーンなども出ました。でもキャスティングをニノでと、越前氏がちらっと触れたらサイトアクセスのヒット数がグッと上がったとか(二宮和也のファンが押し寄せて)。アマゾンランキングも上がったそうです。それをPOPにしている書店までありました。
ここからは感想と議論が広がります。犯罪小説のはずだけど恋愛小説の要素もあって後味はちょっと希望が残るヤングアダルト小説の部分も見える。エンディングが実はすべて作り話だったのかもと感じた人も。これはハッピーエンドか?本当にしゃべることができるようになる?彼女を相手に最初に発する言葉が“I love you”ならいいよね!という、もう「自分がアメリアだったら何を言ってほしいか」的な意見を山盛りにしつつ、話は弾みます。トラウマの体験を壁に描いていくシーンではコマ割りのマンガであるのが現代的で、それをアメリアも同じ方法で返してくる。言葉で記憶する人もいれば、絵で記憶する人もいるといった表現方法への意見から、LINEはスタンプだけでわかるようにマンガや記号がコミュニケーションの手段というのも理解できる…という所で彼女と絵日記を交換していた体験を話す人もいました…いいなぁ(交換日記が?絵が描けることが?)。
『解錠師』はもちろん犯罪小説でもあるので、マイクルはYes かNoかしか要求されない仕事(解錠師)で、よけいなことをしゃべらないから重宝されていた点、悪党キャラの名前がねぼけまなこ、ミスターXとか憎めないタランティーノ的である点や、ポケベルに色がついていてそれぞれのグレードが仕事の内容になっている点にも話は広がりました。ポケベルがわからない若い人もいたことに軽く衝撃。舞台は2000年くらいのアメリカの田舎という設定で、携帯電話も存在するがメール機能はなく、彼の方の意思表示ができない仕組み(指令を受けるだけ)という設定に、アメリカではいまでもすごく古い電気機器が現役で使われていたりする。一番シンプルなものはトレースされにくいから犯罪組織としては警戒して通信手段をアナログにしているのかも?という見解も。ゴーストに入門するとき、デトロイト市が破産していて、さびれているような世相を描いているリアリティは、作者のハミルトンはミシガン出身ということからきており、さびれた町には思い入れがあって彼の作品には頻繁に登場するというお話もうかがえました。
また、ハミルトンはピッキングを出すのが好きだと越前氏。解錠シーンがとても印象的ですが、仕組みを調べるときにピッキングの専門家というか伝道師のような人に会いに行ってお話を伺ったそうです。YouTubeでもアニメや木の模型でディスクが回って解錠されていく様子がわかるものがあるんですって。「コアピン」という言葉は造語で実際にはないのですが、この本のために作られたそうです、マイクルがアーティストであることをわかってほしくて。金庫破りは聴診器のイメージですが、壁金庫は埋め込まれているのでそれはできない。それぞれ流儀があってゴーストは聴診器を使わない。聴診器が必要なやつが最初からやらなくていいと。(「開錠師」だと壊してでも開くイメージになってしまう。こわさずに開くという意味で「解錠師」。)
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そして盛り上がったのが表紙問題!金庫の扉は開けられるのに主人公自身は閉じこもっている(しゃべらない)イメージを表した表紙が、ポケミスだとスタイリッシュ(Kindle版もこれ)で、中ほどの微妙な位置に赤い鍵があって、心を閉ざした少年を意味しているのですが、文庫版は少年がうつむいてしゃがんでいて、文字と鍵の絵が子供っぽく金庫に閉じ込められたイメージ(ネタバレしかねない)。が、これで女性読者の割合も若い読者も増え、新しい層が拡がったとのこと。クラシックなミステリーファンは嫌がる向きもあるでしょうが、新しい読者を開拓する意味では文庫版の表紙も成功したのでしょう(本国のペーパーバックの表紙は灰色の壁に19年後の彼と思しき男性がもたれかかっているのと、鍵が大きく映っているのと2パターン)。今、エラリー・クイーンの作品が改訳されて角川文庫に入っていますが、若い人が好きそうな(萌え?)表紙をあつらえてジャケ買いを促しているそうです。太宰の『人間失格』に『Death Note』の、『伊豆の踊子』は『ジョジョの奇妙な冒険』の漫画家が表紙を手掛けてヒットしたり、というのに近いでしょうか。
ネタバレといえば常に悩ましい問題ですが、ハヤカワの惹句やあらすじ解説にはないけど、文芸ものではある。たとえばデュマの『ダルタニャン物語』は、主人公が死ぬことを知っていてみんな読む。ミステリーではそれは反則扱いだけれど、売れ筋になればストーリーの8割方は知っておきたいらしく、ダン・ブラウンの『インフェルノ』(今、平台に並んでいますね!)でも解説書の方が先に刊行されたりする。結末の一歩手前くらいまで知っている方が多くの読者は安心するそうです。作品と読者の関係は微妙なもののようです。
そういう意味ではサプライズがない『解錠師』。犯罪の世界から逃げず、絵の道には進まない。犯罪のアーティストとしてやみつきになっていたから。隠しておくつもりならできるのについやってしまう。仲間がほしかったのか。グリフィンがいなくなってもまぬけな悪党3人組にも友情を感じていた?という、マイクルの「解錠師」として過ごした時間には同情的な意見も多かったものの、そもそも、どうしてアメリアはマイクルのことが好きになったのか?ハンサムだったから?でも夜に無断で自分の部屋に入ってくる人って怖い。違和感を持ったという、ちゃぶ台返し的に正直な意見も複数ありました。
ケン・ラッセル監督の映画『XXX』がこの『解錠師』によく似ていると指摘するYさんの記事が翻訳ミステリーシンジケートのHPにあって、参加者でこの映画を観たことのあるひとは越前先生を入れて7人。子供のころのトラウマで口がきけなくなる少年という共通点はあるけれど、それ以上ではないかも…?という意見が神戸読書会では多勢を占めました。
最後に、各誌のミステリー・ランキングを見ても、ミステリーの定義が広義になっており、多様な要素がないと売れにくい(犯罪・恋愛・青春・ビルドゥイングスロマン)という話になりました。本格推理小説からは少し外れているこの作品、神戸読書会にふさわしい多種多様な興味を持つ人たちをひきつけた課題図書だったなとうれしく思いました。参加・ご協力くださった皆様、資料を作ってくださったUさん、そして司会から会場設営まで大活躍の末原さん、本当にありがとうございました。次回もあまり堅苦しく考えすぎない課題図書を、希望を募りたいと思います。
ルミナリエも終わった神戸より感謝をこめて。
神戸読書会世話人 眞鍋由比
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