『インフェルノ』への道(その3)(執筆者・越前敏弥)
ダン・ブラウンのラングドン・シリーズ第4作『インフェルノ』の刊行まで、いよいよあと3日。連載「『インフェルノ』への道」はきょうが最終回となります。
KADOKAWAの公式サイトには、プロモーションムービーのほか、津川雅彦さん、荒俣宏さん、わたしの3人のコメント動画、さらには小森純さんがナビゲーターをつとめた発売記念イベントの動画がアップされています。
また、11月30日(土)の午後1時から、荒俣宏さんとわたしの刊行記念トークショーがおこなわれます。会場は、AmazonのKindle Fire HDX の発売日(28日、『インフェルノ』の発売日でもあります)から表参道に特設される〈Kindle エンタメステーション〉。詳細についてはこちらの案内をご覧ください。
- 作者: ダン・ブラウン,越前敏弥
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2013/11/28
- メディア: ハードカバー
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まずは関連書から。すでに刊行されているものと、これから刊行されるものがあります。
【1】『ダン・ブラウン徹底攻略』ダン・ブラウン研究会/著(角川文庫)
- 作者: ダン・ブラウン研究会
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2013/11/22
- メディア: 文庫
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- 作者: 阿刀田高
- 出版社/メーカー: KADOKAWA
- 発売日: 2011/01/25
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【3】『謎と暗号で読み解くダンテ『神曲』』村松真理子/著(角川oneテーマ21)
謎と暗号で読み解く ダンテ『神曲』 (角川oneテーマ21)
- 作者: 村松真理子
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2013/11/23
- メディア: 新書
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この本と著者の村松さんについては、翻訳百景のブログにもう少しくわしく書きました。
【4】『インフェルノ・デコーデッド』マイケル・ハーグ/著、国弘喜美代/訳(角川書店)
- 作者: マイケル・ハーグ,国弘喜美代
- 出版社/メーカー: 角川書店
- 発売日: 2013/11/27
- メディア: 単行本
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そのほか、ドレの挿絵と詳細な訳注が満載の『神曲〈完全版〉』(平川祐弘/訳、河出書房新社)、新装版として島田雅彦・三浦朱門・中沢新一3氏のエッセイが掲載された『神曲』(地獄篇・煉獄篇・天国篇、三浦逸雄/訳、角川ソフィア文庫)、謎解きを主眼とした入門書『誰も書かなかった ダンテ『神曲』の謎』(ダンテの謎研究会/著、中経の文庫)、『天使と悪魔』以降の全作でバランスのよい解説書を書いてきた著者による『インフェルノの「真実」』(ダン・バースタイン&アーン・デ・カイザー/著、青木創/訳、竹書房)なども、よかったら手にとってみてください。
つづいて、『インフェルノ』の読みどころを3点。
【1】大法螺話と禁断の結末
ダン・ブラウンの最高傑作としてこの連載の「その1」で紹介した『デセプション・ポイント』について、杉江松恋氏は『海外ミステリー マストリード100』(重版おめでとう)に、「"もっとも壮大な法螺話の構造を持"ち、"度肝を抜かれること請け合い"」と書いています。『インフェルノ』も、法螺話としてのスケールの大きさではそれに負けていません。得体の知れなさではこれまでのどの作品をもしのぐ「大機構」という謎の組織がいったい何をやらかそうとしているのか、そこに陰謀や秘密結社などとはおよそ縁遠そうなWHO(世界保健機関)がどうからんでくるのか、特に下巻にはいると、上巻ではまったく予想もつかなかった展開になります。これまでのダン・ブラウン作品に見られたややワンパターン気味の構造とはまったくちがう、とてつもない大仕掛けが施されていると申しあげておきます。
そして、ミステリーとしては禁じ手と言ってかまわないであろう奇想天外な結末は、おそらく賛否両論を呼び起こすことでしょう。
【2】『神曲』がテーマに選ばれた必然
上述の『謎と暗号で読み解くダンテ『神曲』』のあとがきには、著者の村松真理子さんが『ダ・ヴィンチ・コード』をはじめて読んだとき、『神曲』が使われているのを感じたというくだりがあります。これを見て、わたしはちょっと驚きました。というのも、『ダ・ヴィンチ・コード』にはダンテや『神曲』や〈地獄篇〉に関する直接の記述はまったくないからです。
先日、村松さんと会ったとき、なぜそんなふうに感じたのかを尋ねたところ、薔薇や円や球体へのこだわり方が『神曲』全般、特に〈天国篇〉のクライマックスに非常によく似ているから、という答が返ってきました。
なるほど、言われてみればたしかにそうです。そして、もしそうだとすると、つぎの『ロスト・シンボル』も、薔薇こそあまり出てこないものの、円や球体を聖なるものとして扱うという点では一段とその傾向が強いと言えます(中盤に出てくるシンボルや、終盤のテンプル会堂の場面を思い出してください)。
また、3や9などを「聖なる数」と見なす考え方がラングドン・シリーズの諸作に出てきますが、今回の『インフェルノ』でもそれは何度も見られます。『ロスト・シンボル』ではフリーメイソンの聖数として33が幾度となく言及されましたが、『神曲』のカント(歌)の数が三部作の各篇とも33であるというのは、たぶん根底のところで通じるものがあるのでしょう。
今年のはじめ、ラングドン・シリーズ第4作のテーマがダンテの『神曲』だと聞かされたときには、あまりにも唐突に感じられたものですが、こうして見ると、意外でもなんでもなかったというわけですね。
【3】日本版だけのちょっとしたサービス?
ご存じのとおり、ダン・ブラウンの作品にはいくつもの暗号が登場します。『インフェルノ』にもいくつか盛りこまれていますが、過去のシリーズ3作に比べて暗号自体は小粒かもしれません。
そのかわり、本筋とはあまり関係ないところで、作者は『神曲』がらみのちょっとしたことば遊びをやっています。これはあまりにもさりげないので、原書を読んだ読者の何分の1かは、おそらく気づかなかったはずです。
翻訳でいちばん苦労したのはそこでしたが、あれこれ工夫した結果、日本語版については、最後まで読んだ人はかならずその遊びに気づくように処理したつもりです。どうぞお楽しみに。
思えば、前作『ロスト・シンボル』では、作者の精神世界への興味がかなり強まったため、ダン・ブラウンはもうエンタテインメントを書かないのではないかとちょっと危惧したものです。しかし、蓋をあけてみると、『インフェルノ』は以前と同じくサービス精神たっぷりの娯楽作品であり、ほっとしました。とはいえ、この作品の後半で扱われる社会問題は、多少の誇張はあるとはいえ、今後われわれが真剣に考えていかざるをえないものでもあります。
最後に、『インフェルノ』のあとがきや、関連サイトや紹介記事、キーワード検索などでこのサイトを訪れてくださった皆さんにひとこと。このサイトは、翻訳ミステリーを愛する翻訳者・編集者・書評家などが完全なボランティアで運営しています。ダン・ブラウンの作品以外にも、翻訳フィクションの面白い作品の情報が満載なので、あれこれ記事をお読みになって、ご自分に向いていそうな作品をいくつも見つけていってください。
あまりにも多くてどれを読んだらいいかわからないときは、まずはこれまでの翻訳ミステリー大賞受賞作をお薦めします。この賞は、日本じゅうの翻訳者がみなさんに読んでもらいたい作品に投票した結果をもとに決められています。
過去の受賞作は以下のとおりです。
第1回(2010年)『犬の力』(ドン・ウィンズロウ/著、東江一紀/訳、角川文庫)
- 作者: ドン・ウィンズロウ,東江一紀
- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
- 発売日: 2009/08/25
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第2回(2011年)『古書の来歴』(ジェラルディン・ブルックス/著、森嶋マリ/訳、武田ランダムハウス)
- 作者: ジェラルディン・ブルックス,森嶋マリ
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- 作者: ジェラルディン・ブルックス,森嶋 マリ
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第3回(2012年)『忘れられた花園』(ケイト・モートン/著、青木純子/訳、東京創元社)
- 作者: ケイト・モートン,青木純子
- 出版社/メーカー: 東京創元社
- 発売日: 2011/02/19
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第4回(2013年)『無罪』(スコット・トゥロー/著、二宮磬/訳、文藝春秋)
- 作者: スコットトゥロー,Scott Turow,二宮磬
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また、全国の読書会の課題書なども参考になると思います。これまでの読書会関係の情報はここやここにまとまっています。
今後も当サイトをどうぞよろしくお願いします。
◇越前敏弥 (えちぜんとしや)。1961年生。おもな訳書に『解錠師』『夜の真義を』『Yの悲劇』『ダ・ヴィンチ・コード』など。趣味は映画館めぐり、ラーメン屋めぐり、マッサージ屋めぐり |
月替わり翻訳者エッセイ バックナンバー
- 作者: ダンテ,平川祐弘
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読み出したら止まらない! 海外ミステリー マストリード100 (日経文芸文庫)
- 作者: 杉江松恋
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- 出版社/メーカー: 角川書店(角川グループパブリッシング)
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- 出版社/メーカー: 角川書店
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