文藝春秋『東西ミステリーベスト100』刊行に寄せて+α【再掲】
週刊文春臨時増刊 東西ミステリー ベスト100 2013年 1/4号 [雑誌]
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2012/11/21
- メディア: 雑誌
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なんと四半世紀ぶりに新版が刊行された文藝春秋『東西ミステリーベスト100』。国内・海外でそれぞれのオールタイムベスト100を投票で決めてしまおうという永久保存版のブックガイドです。
われらが七福神のメンバーがアンケートではいかに回答したか。海外版のそれぞれの順位を見ていただきましょう。投票の際は各作品にコメントもついていましたが、長くなるのでそちらは省略し、全体の選考基準を新たに書き下ろしてもらいました。
では、はじまりはじまり。(以下五十音順で)。
川出正樹
『東西ミステリーベスト100』に票を投じたのは以下の十作。”サスペンス”としての面白さを物差しとして、ミステリであるが故に生まれた、心に長くとどまる物語を選びました。ベスト100圏内には一つもかすらなかったけれど、いずれも絶対の自信を持ってお薦めできる逸品です。特に、戒厳令下の密閉空間を舞台に美しくも歪んだ愛の告白劇が繰り広げられる異様な迫力に満ちたサスペンス『奇妙な人生』は永遠のベスト1。ミステリ観どころか人生観まで変えられました。
1.スティーヴン・ドビンズ『奇妙な人生』(扶桑社ミステリー)
2.キャロル・オコンネル『愛おしい骨』(創元推理文庫)
3.レナード・ワイズ『ビッグ・ゲーム』(ハヤカワ・ノヴェルズ)
4.ケム・ナン『源にふれろ』(早川書房)
5.ガイ・バート『ソフィー』(創元推理文庫)
6.マーガレット・ミラー『殺す風』(創元推理文庫)
7.ケイト・モートン『忘れられた花園』(東京創元社)
8.ヒラリー・ウォー『この町の誰かが』(創元推理文庫)
9.ピエール・シニアック『ウサギ料理は殺しの味』(創元推理文庫)
10.ウィリアム・モール『ハマースミスのうじ虫』(東京創元社)
酒井貞道
選定基準など決まっている。読んだ時にぶっ飛んだのが大前提で、その後も、興奮・感動・感銘といった熱が尾を引き、今に至るまで遂に冷静になり切れなかった、というのが第二条件である。それ以外のことは何も気にしないようにした。バランス? 歴史的意義? そういうのはこの種の企画の場合、多数の投票が集計されて初めて、集合知として立ち現われるものだと思っています。書評七福神だけでは、それはちょっと無理かも知れませんが、まあしょうがないね。あ、でも一作家一作品ということだけは気にしたかな。
1.ウンベルト・エーコ『薔薇の名前』(東京創元社)
2.ピーター・ディキンスン『キングとジョーカー』(扶桑社ミステリー)
3.エラリイ・クイーン『ギリシャ棺の秘密』(ハヤカワ・ミステリ文庫)
4.ドン・ウィンズロウ『犬の力』(角川文庫)
5.ヘニング・マンケル『背後の足音』(創元推理文庫)
6.S・J・ローザン『冬そして夜』(創元推理文庫)
7.R・D・ウィングフィールド『フロスト日和』(創元推理文庫)
8.クリスチアナ・ブランド『ジェゼベルの死』(ハヤカワ・ミステリ文庫)
9.アントニイ・バークリー『最上階の殺人』(新樹社)
10.ドロシー・L・セイヤーズ『ナインテイラーズ』(創元推理文庫)
霜月蒼
私の根本にあるのは86年版『東西ミステリーベスト100』を席巻していた冒険小説とハードボイルドだ。だが今回は「犯罪」を重視して「冒険」は排除した。でないと10作に絞れなかった。結果として多くを占めたのは「人間の魂の隠されるべき半面」をめぐる作品であり、そうでないのは3と6くらいか。私の中軸をなす関心はそういうものだ、ということだろう。小説は感情を操作するエンテインメントであり、この10作に共通するのは、すぐれた文体/語り口で読む者の感情を強く揺さぶる点だろう。なお一応記しておくと、2、3、5、6以外の6作は、狭い意味での「ミステリ=謎解き」としても傑作。とくに10は、私にとって『オランダ靴の秘密』と並んで謎解きミステリの快感の真髄が宿った作品である。
1.ジェイムズ・エルロイ『ホワイト・ジャズ』(文春文庫)
2.ローレンス・ブロック『八百万の死にざま』(ハヤカワ・ミステリ文庫)
3.ディック・フランシス『大穴』(ハヤカワ・ミステリ文庫)
4.ロス・マクドナルド『さむけ』(ハヤカワ・ミステリ文庫)
5.ボストン・テラン『神は銃弾』(文春文庫)
6.シャーロット・アームストロング『毒薬の小壜』
7.ヘレン・マクロイ『暗い鏡の中に』(創元推理文庫)
8マーガレット・ミラー『まるで天使のような』(ハヤカワ・ミステリ文庫)
9.ジェイムズ・エルロイ『ビッグ・ノーウェア』(文春文庫)
10.クリスチアナ・ブランド『疑惑の霧』(ハヤカワ・ミステリ文庫)
杉江松恋
基本的には好みで選んだ気がするのですが、よくよく見直してみると「後続作家に決定的な影響を与えたであろう傑作」を中心にしていました。私、えらい(自画自賛)。あと、第二次世界大戦前の作品は入れていません。
1.マイ・シューヴァルー&ペール・ヴァールー『笑う警官』(角川文庫)
2.ヒラリー・ウォー『事件当夜は雨』(創元推理文庫)
3.リチャード・スターク『悪党パーカー/人狩り』(ハヤカワ・ミステリ文庫)
4.タッカー・コウ『刑事くずれ/蝋のりんご』(ハヤカワ・ミステリ)
5.フレドリック・ブラウン『手斧が首を切りにきた』(創元推理文庫)
6.ウォルター・サタスウェイト『リジーは斧をふりおろす』(ハヤカワ・ミステリ)
7.セオドア・ローザック『フリッカー、あるいは映画の魔』(文春文庫)
8.ハドリー・チェイス『世界をおれのポケットに』(創元推理文庫)
9.ジェイムズ・マクルーア『スティームピッグ』(ハヤカワ・ミステリ)
10.ノエル・カレフ『死刑台のエレベーター』(創元推理文庫)
千街晶之
海外は完全にオールタイムで選んだが、国内は新しめの作品も入れたかったので戦前の作品は敢えて省いた。あと、この投票のためにわざわざ再読した本は一冊もない。読み返さなければ内容を思い出せない作品など、そもそも投票に値するとは思えなかったので。従って、選択基準は「再読する必要がないほど印象に残っている=完全にミステリ読みとしての自分の血肉になっている」作品。わりとオーソドックスな選択のようでいて、二位がリチャード・ニーリィだったり、ロスマクが『さむけ』や『ウィチャリー家の女』ではなく『一瞬の敵』であるあたりはちょっとひねくれているかも、と自分でも思う。(※国内版の投票もいただきましたが、内容を揃えるために割愛させていただきました。編集部)
1.ジョン・ディクスン・カー『三つの棺』(ハヤカワ・ミステリ文庫)
2.リチャード・ニーリィ『心ひき裂かれて』(角川文庫)
3.セオドア・ローザック『フリッカー、あるいは映画の魔』(文春文庫)
4.クリスチアナ・ブランド『ジェゼベルの死』(ハヤカワ・ミステリ文庫)
5.アガサ・クリスティー『そして誰もいなくなった』(ハヤカワ・ミステリ文庫)
6.ヘレン・マクロイ『暗い鏡の中に』創元推理文庫
7.マーガレット・ミラー『まるで天使のような』(ハヤカワ・ミステリ文庫)
8.トマス・H・クック『夜の記憶』(文春文庫)
9.ロス・マクドナルド『一瞬の敵』(ハヤカワ・ミステリ文庫)
10.T・S・ストリブリング『カリブ諸島の手がかり』(河出文庫)
吉野仁
あえてクライム・サスペンスを中心に挙げてみた。十作しか選べないゆえ、クリスティ、マクリーン、フランシス、ヴァクス、クック、ハンターなど、泣く泣
く落した作家(作品)は数え切れない。
1.ジム・トンプスン『おれの中の殺し屋』(扶桑社ミステリー)
2.ダシール・ハメット『赤い収穫』(ハヤカワ・ミステリ文庫)
3.パトリシア・ハイスミス『太陽がいっぱい』(河出文庫)
4.リチャード・スターク『悪党パーカー/人狩り』(ハヤカワ・ミステリ文庫)
5.トレヴェニアン『ワイオミングの惨劇』(新潮文庫)
6.ジェイムズ・エルロイ『ビッグ・ノーウェア』(文春文庫)
7.ジャン=パトリック・マンシェット『愚者が出てくる、城寨が見える』(光文社古典新訳文庫)
8.ジャン・ヴォートラン『グルーム』(文春文庫)
9.ジェイムズ・M・ケイン『郵便配達夫はいつも二度ベルを鳴らす』(ハヤカワ・ミステリ文庫)
10.スティーグ・ラーソン『ドラゴン・タトゥーの女 ミレニアム』(ハヤカワ・ミステリ文庫)
特別篇
北上次郎
※北上さんからはオールタイムベストの代わりに2012年度のベストを頂戴しました。
ベスト10の基準はごくシンプルだ。つまり「面白かったもの」だ。強く記憶に残ったものを選んだらこうなった。特に、ベスト3の3冊は特筆もの。この3冊を読むことができて、今年は幸せであった。
1.マーク・グリーニー『暗殺者グレイマン』(ハヤカワ文庫NV)
2.ジョン・スコルジー『アンドロイドの夢の羊』(ハヤカワ文庫SF)
3.パトリック・ネス『心のナイフ』(東京創元社)
4.アーナルデュル・インドリダソン『湿地』(東京創元社)
5.『アイアンハウス』(ハヤカワ・ミステリ)
6.スコット・トゥロー『無罪』(文藝春秋)
7.フォルカー・クッチャー『濡れた魚』(創元推理文庫)
8.ニック・ダイベック『フリント船長がまだいい人だったころ』(ハヤカワ・ミステリ)
9.トム・ウッド『パーフェクト・ハンター』(ハヤカワ文庫NV)
10.マイクル・クライトン&リチャード・プレストン『マイクロワールド』(ハヤカワ・ノヴェルズ)