第三回の北上氏の再反論にひとこと(執筆者・田口俊樹)

 

▼北上氏の再反論にひとこと

 
 寡聞にして私、北上さんがダメ男研究の泰斗であられることを知らず、なんか地雷を踏んじゃったかなと思って恐る恐る読みはじめたんですけど、さすがダメ男をよく知るダメ男の中のダメ男ならではのおやさしいおことば(何言ってんだ、おれ?)痛み入ります。
 今度は、わが眼を疑う、じゃなくて、貴兄のご指摘に眼から鱗でした。
 

 ――(浮気は)1回でもダメなのである。それが世の常識というものだ。

 
 そうだったんですか!!! し、しりませんでした。
 でもね、おことばを返すわけじゃありませんが、ダメなことをするからダメ男ってわけでもないですよね。いや、ダメなことをするのはやっぱダメ男かもしれないけど、ダメなことさえできないダメ男ってのもいますよね。あ、別にKG山さんのことを言ってるわけじゃありませんよ。恐妻家の、もとい、愛妻家のKG山さんは立派な人です、はい。それと、浮気も男の甲斐性だなんてね、そんな下卑たおっさんみたいな、あるいはフェミニストの袋叩きにあいそうなことを言うつもりもありませんけど。
 

 ――(サビッチは)それまで本当にただの一度も浮気しなかったのだろうか。かなり怪しいと私は思う。でも、本人がそう言ってるじゃん、と言われても、こんなの嘘に決まっている……

 
 さすが北上さん、伊達に長年、書評をなさってるわけじゃない! 一人称の登場人物が嘘をついてるかもしれない! なんて私のような騙されやすい読者には思いもよらないご指摘! って、いや、実はね、北上さんがそうおっしゃるから言いますけど、私もちょっとサビッチさんのこと、疑ってるんです。
 その理由はいささか具体的というか、シモがかってるんで、フェミニストのみならず、女子全般のひんしゅくを買うかもしれないけど、ええい、かまうものか、言っちゃうと、男のイキ方と女のイキ方のちがいをサビッチがトルストイの有名なことばにあてはめるくだりがあるでしょ? つまり、幸福な家庭はどこも似たり寄ったりだが、不幸な家庭は千差万別っていうやつに。男のほうは似たり寄ったりってことがサビッチにわかったとしても、女のイキ方は千差万別だなんてさ、こりゃ、石部金吉の言うことじゃありませんぜ。羨ましくも、もとい、腹立たしくも相当場数を踏んでる女たらしがいかにもうそぶきそうな台詞じゃありませんか。ま、ほんとのところは、この喩えを思いついたトゥローさんが自分であまりにうけちまって、ついうっかりサビッチに語らせちまった、というのが当たってるような気がしないでもないですが。
 
 いずれにしろ、北上さん、眼から鱗のご教示、ありがとうございました。一本でもニンジン、一回でもダメ男。確かにねえ。その一回が大切ですよね。そこで男はやっぱ毅然としてなきゃねえ。一回やっちゃうと、殺人みたいなもんで、あとはもう何回でもみたいになっちゃうもんね。あれ、私、なんか変なこと言ってないですよね。
 今こう書いて、思い出したんだけど、チャップリンの名台詞。ひとり殺したら人殺し、千人殺したら英雄ってやつ。千回やったらダメ男でなくなり、英雄になれる!?
 いや、わかってますって、北上さん。ちょっと言ってみただけですから。だって、いくらなんでも千回は無理でしょう。十回や二十回ならよくても。いや、よくなくても。えっ、そういう問題じゃない? わかってます、わかってますって、北上さん、いや、ほんとうに。
 

無罪 INNOCENT

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