第4回名古屋読書会レポート(前編)「ツッコミの森」(執筆者・大矢博子)

 
 
 いやあ、すみませんねえ遅くなって。これまではムダに早いだけが名古屋読書会レポの取り柄だったんですが。いやいやいやいや決してオリンピックにハマってるわけでは。そりゃ体操の加藤くんのイケメンぶりにうっとりはしてましたが、ぞれはそれとして、仕事が忙しくてですね、昨日はある人気女性文筆家によるエッセイ集の文庫解説を書いてたんですよ。
 そのエッセイ集ってのが、生活の中の細かいあれこれにこだわり深く追求するってな類いのものでして、その解説を書くにあたって私の脳裏にはこんなコピーが浮かんできたわけです。


〈枝葉にこだわり、ムダに深堀り〉


 お、我ながら巧いぞと。私コピーの才能あるんじゃね?と。意気揚々と解説を書き上げ、さてようやく読書会レポを書けるわと当日の記憶を呼び覚ますべくレジュメを取り出したら……そこには……そこには……



 あああああ、これか! これが脳内に残っていたのか私! レジュメ担当幹事のKさんごめん、私あなたのコピーを無意識にパクってしまった! 来週ビールおごるから許して……。


追撃の森 (文春文庫)

追撃の森 (文春文庫)

 とまあ、そんな枝葉にこだわりムダに深堀りの名古屋読書会がジェフリー・ディーヴァー『追撃の森』(文春文庫)を課題図書にいよいよスタートです。翻訳者の土屋晃さん、担当編集者の永嶋俊一郎さんをゲストに迎え、文庫解説を担当した不肖ワタクシ大矢もいるという、むしろディーヴァー本人がいないのが不思議ってくらいの布陣で臨んだわけですが、さて皆さん、ディーヴァー作品の特徴と言えば何でしょう? そうですね、めくるめくどんでん返しですね。こうだと思っていたものがどんでんどんでんどんでんと返されていく驚きと快感とカタルシス。もちろん読書会でも「あれ驚いたね」「あれ意外だったね」という箇所が話題にのぼりました。しかし、しかしですよ。ということはこのレポは


 何を書いてもネタバレ。


 どうせいっちゅうの! てなわけで、ネタバレにならないラインで皆さんの発言をピックアップしてみましょう。まずはキャラクタについて。


 「ブリン(主役の女性保安官補)ってさ、弾丸が頬を貫通した状態で走り回るって何なの?」「休めよと」「寝てろよと」「動くなと」「しかも縫うと痕が残るからって絆創膏で済ませてるし」「銃創に絆創膏って」「顔に穴があいてるのに、ウエストサイズの方を気にするっていう優先順位もなんかおかしい」「優先順位といえばこの子育て方針もどうかと」「息子、間違いなくスポイルされるよね」「私生活はダメだけど仕事ができる女性って設定?」「いやでもブリンの行動って、敵だけじゃなくて素人の夫にすら読まれてるし」「簡単過ぎだよね」「ダメじゃん」「ダメじゃん」「ダメじゃん」


 「それ比べてハート(殺し屋)ってかっこいい?」「職人って感じよねー」「家具作りが趣味の殺し屋……(うっとり)」「この〈測るのは二度、切るのは一度〉っていうモットーがいかにも職人だよね」「あ、それわからなかったの。どういうこと?」「だから準備は念入りに、実行は1回で決めるという……」「えええ? たった2回しか測らないの?!」「ものづくりニッポンとしては考えられない手抜き」「アメリカ人、大雑把だなあ」「たった2回の計測で切っちゃうなんて」「むしろ拙速」「むしろ準備不足」「だから、せっかくブリンを殺せる機会があったのに逃げられちゃうんだよ」「ダメじゃん」「ダメじゃん」「ダメじゃん」


 ちなみに〈測るのは二度、切るのは一度〉というフレーズは、ディーヴァーの『青い虚空』にも出てくるよ、と翻訳者の土屋さんよりナイスな情報を頂戴しました。お手持ちの方はチェックだ!


 ところでこの読書会、前半は2グループに分けてのフリー討論、後半は全員で各グループで出た疑問をぶつけあうという構成でやっているわけですが、その後半での会話。Aグループのひとりが「どんでん返しと言えば、××が××ってのは驚いたね!」と言ったわけですよ。したらばさ。Bグループから「え? それってけっこう早い段階で気がついたけど」とさらっとかわされたじゃありませんか! 「うそっ!」「えー、わかりますよ、だって△△のあたりなんてモロに怪しい」「ちょ、ちょっと待って、××が××って気づいてた人、どれくらいいるの?」


 Bグループの大半が手をあげ、Aグループはゼロ。


 「げっ、何なのBグループ!」「いやむしろなぜ気づかないんだAグループ」「ちょっと! グループ分け担当のI幹事、あんたどういう基準で分けたのよ!」「偶然よ! そんなとこに気づいてるかどうかなんて前もってわかるわけないでしょうが!」「っていうかBグループ侮りがたし…」「でもミステリは騙されてナンボだから! Aグループの方がピュアに物語を楽しめたんだから!」「……ふっ┐(´ー`)┌」「何よその勝ち誇った失笑は!」


 しかしこのあと、Aグループに起死回生の展開が! 中編に続く。

後編「叙述の森」はこちら



大矢博子(おおや ひろこ)。書評家。著書にドラゴンズ&リハビリエッセイ『脳天気にもホドがある。』東洋経済新報社)、共著で『よりぬき読書相談室シリーズ(本の雑誌社)などがある。大分県出身、名古屋市在住。現在CBCラジオで本の紹介コーナーに出演中。ツイッターアカウントは @ohyeah1101

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