候補じゃないけどこれも読め!第6回『黒竜江から来た警部』(執筆者・鈴木恵)
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ぼくが翻訳者として、読者のみなさんにお薦めしたいのはこれ。
一口でいうと、イギリスで行方不明になった娘を捜しに中国からやってきた男が、中国人不法就労者の若者と息の合わない二人三脚を組み、ノンストップでブルドーザーのように突っ走る物語。
まずは設定がいい。中国では人を顎で使うような暮らしをしていた男(泣く子も黙る公安局の警部!)が、言葉も肩書きも通じない異世界へ放り込まれて、徒手空拳で真相に迫っていくのだ。ポイントは、東洋ではなく西洋が異世界になっていること。逆の設定はよくあるけれど、その手のものはぼくらから見ると、映画《ランボー》を筆頭に、たいてい不愉快だ。ありがちな設定をひっくり返して、カルチャーギャップを笑いにしているところが、たいへん好ましい。
次にキャラがいい。主人公はどこかあのフロスト警部を髣髴させる、無教養でガサツで自分勝手な男なのだが、甘やかされ放題のバカ娘を助けたい一心で、あらゆる困難を突破していく。こんな男を好きにならずにはいられません。息の合わないコンビを組む相手が、気弱な愛妻家の若者というのも、たいへんバランスがよろしい。たんに中国人をおちょくっているわけではないのだ。
最後に翻訳がいい。この物語にぴったりな、なんと言ったらいいか、元気のいい翻訳。この文体がなかったら、これほど面白くは読めなかったはず。翻訳物を食わずぎらいしている読者も、これを読めば認識を改めてくれると思う。すごい本はほかにもたくさんあったけれど、ぼくはこの作品に「翻訳ミステリー大賞」を取ってほしかった!
設定よし、キャラよし、翻訳よし。暗く重たい帰郷ものミステリーに疲れたら、ぜひこれを読んでほしい。
◇鈴木 恵(すずき めぐみ)文芸翻訳者・馬券研究家。最近の主な訳書:『ロンドン・ブールヴァード』『ピザマンの事件簿/デリバリーは命がけ』『グローバリズム出づる処の殺人者より』。最近の主な馬券:なし orz。ツイッターアカウント@tweetingsuz) |
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