3都市連読開催・読書会レポート(執筆者・越前敏弥)

 去る1月25日から28日にかけて、当サイトの主催する読書会が連続開催されました。各地で参加してくださったかたがた、告知に協力してくださったみなさん、ありがとうございました。
 簡単ではありますが、それらの模様を紹介します。


 その前にまず、課題書の『七人のおば』について。
 第2次大戦が終わってまだ間もないころ、結婚して渡英したサリーのもとに、地元ニューヨークの友人から、サリーのおばが夫を毒殺してみずからも命を絶ったという手紙が届きます。サリーにはおばが7人いますが、手紙には名前が書かれていなかったので、だれのことかわかりません。サリーは夫ピーターとともに、おばたちと暮らした年月を回想しつつ、犯人と被害者がだれであるのかを推理していきます。
 作者のパット・マガーは、被害者捜し、探偵捜し、目撃者捜しなど、1作ごとに新機軸を打ち出して読者を魅了してきましたが、この『七人のおば』はその最高傑作とされており、初心者からミステリー通まで、さまざまな楽しみ方ができるロングセラーです。


七人のおば (創元推理文庫)

七人のおば (創元推理文庫)



 まず1月25日(火)の東京読書会。一般の参加者のかた17名に、シンジケート事務局メンバー8名が加わって、にぎやかな会となりました。こちらは3回目ということもあって、リピーターのかたも多く、最初からエンジン全開という感じで、鋭い意見、独創的な見解が飛び交いました(どんな意見が出たかは、あとでまとめて書きます)。すれっからしのミステリー通がミスリードに引っかかったり、逆に初心者があっさり真相を見抜いたりという楽しいやりとりもあり、一般読者、編集者、書評家、翻訳者など、さまざまな立場からの発言が、1冊の本を読む楽しみを何倍にも増幅してくれた会でした。



 つづいて、1日あいて、27日(木)の福岡読書会。当地在住の翻訳者、三角和代さんと駒月雅子さんがあれこれ段取りをつけてくださって実現できました。参加者は東京から出向いたわたしを含めて9名。直前にインフルエンザにかかって無念の欠席となったSさん、次回はぜひどうぞ。参加者のかたは本格ミステリーだけでなく、SFやハードボイルドや純文学など、多岐にわたるジャンルの愛好者が多く、さまざまな意見が聞けました。また、『七人のおば』の登場人物と似た考えの持ち主は九州に多いとか、特に多いのは佐賀県だとか、地元色豊かな議論も大いに楽しめたものです。九州を翻訳ミステリーのみならず読書王国にしたいというみなさんの意気込み、わたしたちにもぜひ支援させてください。



 翌28日(金)が大阪読書会。こちらは以前からおこなわれている翻訳の勉強会のメンバーが中心になって立ちあげてくださいました。参加者は一般だけで定員の20名に達し、シンジケート事務局から加賀山卓朗とわたしが加わりました。翻訳学習者だけでなく、何十年も前からミステリー愛好サークルの会員でいらっしゃるかたなど、筋金入りのファンも参加してくださり、東京・福岡ではまったく出なかった意見も新たにいくつも聞けたものです。東京・福岡で、ひとつの疑問として、「原書には登場人物表がついていたのだろうか?」というものがあったのですが、大阪では原書のみならず、ぶらっく選書で最初に出た抄訳版(当時のタイトルは『怖るべき娘達』)を持参してくださったかたがいて、みごとに疑問が解決しました(原書には系図部分が載っていて、補足の数行だけが訳書で補われたものです)。


 もちろん、3会場とも、終了後には近くで2次会があり、半数以上の人たちが残って、遅くまでミステリー談義に花を咲かせていました。


 3会場で多く出た意見を、ネタバレにならない範囲でいくつか紹介すると――


・7人のおばたちの人物造形がすばらしくて、人間ドラマに魅了され、途中から犯人探しなどどうでもよくなっていくが、実はそのあいだにもさりげなく伏線が張ってあるところが秀逸。


・語り手ふたりをきわめて正常な人物にし、現在と回想部分を交互に組み合わせた構成が斬新。


アメリカとイギリスの対比が随所に見られるところがおもしろい一方、アメリカでもこの当時はきわめて保守的な価値観が厳然と存在したことがわかって驚いた。


・生々しい人間劇と見るべきなのか、軽妙なコメディと見るべきなのかは、登場人物たちとの距離の置き方によって決まる。


 などなど、とうてい書ききれません。ともあれ、大半のみなさんがこの課題書に満足してくださり、パット・マガーのほかの作品を読んでみたいと思っていらっしゃったようです。


 最後に、ネタバレの領域にはいるであろう意見を伏せ字でふたつ紹介します。ひとつは完全な余興で、もうひとつは創作の根幹にかかわる問題です。この作品をすでに読了なさったかただけ、反転部分にカーソルをあててお読みください。


【反転開始】
・表紙(15版以降)に7人のおばたちの絵があり、本文の記述から、だれがだれであるか特定できる。ところで、左側の毒薬の瓶が置かれてすぐ横にいるのは、なんと……。


・原題 "The Seven Deadly Sisters" は、「7つの大罪」(seven deadly sins)を下敷きにしたものと考えられる。そこで、その7つをおばたちに対応させてみると、以下のようにみごとにあてはまる!


傲慢(p r i d e)――ク ラ ラ
嫉妬(e n v y)――テ ッ シ ー
憤怒(w r a t h)――ア グ ネ ス
怠惰(s l o t h)――モ リ ー
強欲(g r e e d)――ジ ュ デ ィ
大食(g l u t t o n y)――イ ー デ ィ ス(食→酒)
色欲(l u s t)――ド リ ス
【反転終了】


 というわけで、1冊の本がこれだけ濃密で豊かな時間を提供してくれることが実感でき、わたし自身にとっても至福の3日間でした。みなさん、ほんとうにありがとうございました。そして、次回の読書会にもぜひご参加ください。


 実は、福岡と大阪については、終了後に全員で相談した結果、すでに次回の日程と課題書が決まりました。


 第2回福岡読書会 5月27日(金)19時から21時
 課題書――キャロル・オコンネル『クリスマスに少女は還る』


 第2回大阪読書会 5月13日(金)19時から21時
 課題書――ピーター・ラヴゼイ『偽のデュー警部』


クリスマスに少女は還る (創元推理文庫)

クリスマスに少女は還る (創元推理文庫)

偽のデュー警部 (ハヤカワ・ミステリ文庫 91-1)

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 次回もどうぞふるってご参加ください。当シンジケート事務局のメンバーも加わる予定です。


 また、東京・福岡・大阪以外での翻訳ミステリー読書会の開催を希望なさっているみなさんも、どうぞご要望をメールかツイッターでお寄せください。あるいは、当シンジケートの主催・共催などにはこだわらず、各地で翻訳フィクションの読書会や、そんなに堅苦しくない雑談の集まりなどがつぎつぎ生まれていくのであれば、それこそがわたしたちの望むところです。


 今回参加のみなさんも、まだ一度もお会いしていないみなさんも、つぎの読書会の場でお会いするのを楽しみにしています。


  越前敏弥


探偵を捜せ! (創元推理文庫 164-1)

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四人の女 (創元推理文庫 (164‐3))

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被害者を捜せ! (創元推理文庫 (164‐2))

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目撃者を捜せ! (創元推理文庫)

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