翻訳ミステリーの子供・小路幸也さんの巻 第六回(構成・杉江松恋)

 小路幸也さんをお招きしての「週末招待席」第六回。今回はちょっとマニアックな内容です。影響を受けた作家として小路さんはアーウィン・ショー、デイモン・ラニアン、マイクル・Z・リューインの三人を挙げられました。ではその三人について、初心者でもわかりやすく作家の姿勢を教えていただきましょう。質問に対してなんと小路さんは……?


(前回の記事を読む)


――先ほど名前の挙がったショー、ラニアン、リューインはタイプの違った作家ですが、一種の「節度」のようなものを持った男性を書きます。日本人から観ると「恥じらい」に見えることもある態度で、もしかすると翻訳がすごく難しいニュアンスなのかもしれません。比較のために、それぞれの作者の違いのようなものを表現していただけると嬉しいです。


小路 僕なんかが真面目に彼らを語るのはおこがましいので、こんな風に表現しちゃいますけどショーは山下達郎で、ラニアンは吉田拓郎で、リューインは佐野元春ですね。


――おお、思ってもみなかった比喩です(笑)。ではまず、山下達郎から……。


小路 ショーは〈都会の風〉を身の内に秘めた作家なのではないかと推察します。そして都会人らしくゴージャスにきちんとプロットを立て計算し尽くして描ける。出来上がった作品は、全ての楽器が奏でるメロディがひとつの大きな波になってゆったりと押し寄せてきます。ポップスの王道を行きながらも、その裏側にあるのはまるで交響曲のようです。


――ラニアンが吉田拓郎というのは?


小路 ラニアンは都会を描きながらもそこに流れるのは〈ダウンタウンの血〉です。下卑た笑いと泣き笑いをキャンディのようにひとつにくるんでしまって、リズミカルに仕立て上げられるのは、計算ではなく天性のものではないかと。実は誰にも真似できないことをしているのに、誰もが共感できるポピュラリティを持っているのでしょう。粗にして野であるが卑ではないといったところでしょうか(笑)。


――なるほど、吉田拓郎だ。では、最後に佐野元春です。


リューインは、(サムスンシリーズでは)私立探偵という鎧を身に纏いながらも、その中で脈打っているのは〈叙情性〉だと思います。夕焼けに涙するほど女々しい男なのに、だが私は(私立探偵)だ、と、その涙の理由を声に出して歌わないで、街を歩くリズムにやせ我慢して変換していくのです。時にはスローに、時にはタイトに、詩情溢れるその街を歩くリズムは決して都会の車の音や雑踏の中に紛れ込んでいかないで、高らかにビルの谷間に響くのです。


(つづく)
(プロフィール)
小路幸也 しょうじ・ゆきや
北海道旭川市生れ。札幌市の広告制作会社に14年勤務。退社後執筆活動へ。2003年に『空を見上げる古い歌を口ずさむ pulp-town fiction』で第29回講談社メフィスト賞を受賞し、デビューを果たす。2006年、古書店を経営する大家族が主人公の『東京バンドワゴン』を発表し、ミステリー以外の読者からも注目を集めた。著書多数。北海道江別市在住。