アガサ・クリスティー攻略作戦・第一回 その1(執筆者・霜月蒼)

スタイルズ荘の怪事件 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

スタイルズ荘の怪事件 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)


 アガサ・クリスティー『スタイルズ荘の怪事件』(クリスティー文庫)を読む。


 はぁ? 何をいまさら? と言われるかもしれないが、再読ですらなく初読である。クリスティー作品はほとんど読んだことがないのだ。


 なにぶんミステリ者としての揺籃期をすごした中学時代は1980's、冒険小説とハードボイルドの季節であった。18歳のとき慶應推理小説同好会に入って本格ミステリを読むようになったものの、童貞ミステリおたくだったから「無難」な感じのクリスティーはスルーしてしまって、つい尖ったものに気持ちが行ってしまったのですね――怜悧でハードコアなエラリイ・クィーンとか豪快エンタテイナー親爺ジョン・ディクスン・カーとか触れれば切れて血が出そうな意地悪女王クリスチアナ・ブランドとかにね。


 おかげで四十路目前のいまに至るも読んだことがあるのは『ABC殺人事件』『オリエント急行の殺人』『アクロイド殺し』『そして誰もいなくなった』『白昼の悪魔』『葬儀を終えて』。以上たった6作である。


 そんなことではいかん。ということでクリスティー全作攻略に挑むことにしたのである。平生ノワールだのイヤミスだの、暴力だの絶望だの言ってる人間に、「お茶とケーキ」で「カントリーハウスで遺産相続」なクリスティー(以上、わが脳内イメージによる)は果たして楽しめるのか。真価をちゃんと味わえるのか。


 せっかくクリスティー文庫なるものを早川書房が出していることでもあるし、イチから順番にやっつけていこうというわけなのだ。つまり《ポアロもの長篇》→《マープルもの長篇》→《トミー&タペンス》→《短篇集》→《戯曲》→《ノンシリーズほか》という順序での攻略作戦を策定したのであります。


(つづく)