今年もやりました! 出版社対抗ビブリオバトル・レポートと各社の隠し玉公開!

 

 すでにお知らせしたとおり、去る4月19日に翻訳ミステリー大賞・読者賞の授賞式とコンベンションが開催されました。休憩後の第2部の目玉イベントとして、昨年も大好評だった出版社対抗ビブリオバトルがおこなわれたので、きょうはその模様を紹介します。


 ビブリオバトルの公式ルールはここにあります。簡単に言うと、プレゼンターが1冊の本の魅力を全員の前で語り、そのあとで全員から質問を受ける。これを何人かで繰り返し、「最も読みたくなった本」に全員が投票して、チャンプ本を決める。これだけです。最も熱く語り、最も多くの聞き手=読者の心をつかんだプレゼンターが表彰されるというわけです。
 


 今回、プレゼンターとして参加したのは、翻訳ミステリーの版元5社(東京創元社集英社小学館早川書房文藝春秋)の熱血編集者たち。昨年より1社増えました。それぞれ多忙ななかで時間をかけて準備し、各社の夏ごろまでの近刊一押し本について、気合いじゅうぶんに語ってくれました。


(写真右から、東京創元社の宮澤さん、集英社の佐藤さん、小学館の稲垣さん、早川書房の善元さん、文藝春秋の永嶋さん)


 東京創元社の宮澤さん、文藝春秋の永嶋さんは昨年につづいての参戦です。
 今回のビブリオバトルは、ひとりあたりの持ち時間が5分、質問タイムが3分というルールでおこなわれました。5分というのは、ずいぶん長いと感じられるかもしれませんが、1冊の本の内容とその魅力を語りはじめると、5分などあっという間に経ってしまいます。
 一方、質問時間の3分というのは、筋金入りの翻訳ミステリー好きが集まるコンベンションの場では、プレゼンターにとって苛酷な時間です。自分の番がまわってくるまで、見ていて痛々しいほど緊張している編集者もいらっしゃいました。ごめんなさい、年に一度の機会なので、どうかお許しを。
 今回の質問タイムも、作品の魅力をより伝えやすくしてくれそうな応援型の質問もあれば、少々意地の悪い質問もありましたが、それもみなプレゼンターと質問者の双方の翻訳ミステリー愛の強さゆえのこと、今年も笑い沸騰の楽しい時間となりました。


 各社が一押し本としてあげた作品は以下のとおりです。


東京創元社
『ペナンブラ氏の24時間書店』 ロビン・スローン著/島村浩子訳/4月21日刊


集英社
『ライフボート』 シャーロット・ローガン著/池田真紀子訳/5月20日


小学館
『NOS4A2 ―ノスフェラトゥ―』 ジョー・ヒル著/白石朗訳/5月8日刊


早川書房
『ミステリマガジン700 創刊700号記念アンソロジー【海外篇】』 杉江松恋編/4月24日刊


文藝春秋
『ゴーストマン』 ロジャー・ホッブス著/田口俊樹訳/8月刊


 投票では、昨年は時間切れに泣かされて動揺しまくった文藝春秋の永嶋さんが、捲土重来を期して1年間トレーニングを重ねたという噂はほんんとうなのかどうか、そのうえ昨年とは打って変わって、ストライプのスーツにオレンジのネクタイ(!)という洒落者のいでたちで登場した効果もあったのか、今回はみごとに最多得票を集め、『ゴーストマン』が第2回出版社対抗ビブリオバトルのチャンプ本に選出されました。おめでとうございます。


 本来なら今年も審査委員長・田口俊樹から賞状を授与すべきところですが、チャンプ本の訳者だったこともあって、代わりに事務局の白石朗が渡すことになり、数時間前の大賞授賞式での受賞訳者が、双子の弟にしか見えない受賞編集者に賞状を渡すという、なんともカオスな瞬間が訪れました。




 チャンプ本となった『ゴーストマン』は、今後の全国読書会で優先的に課題書とすることになっています。
 チャンプ本はもちろんのこと、他社の一押し本もそれぞれに魅力あふれる作品で、参加者のかたから多くの票を集めました。刊行された暁にはぜひ手にとってみてください。


 今年も翻訳ミステリーを愛する参加者が一丸となって盛りあげてくださり、楽しい時間とすることができました。プレゼンターの編集者のみなさん、参加してくれたみなさん、ご協力ありがとうございました。


 最後に、この日配られた各社のバトル用資料と、今後刊行が予定されている隠し玉リストをここに一挙掲載します。ご自由にダウンロードして今後の読書の参考になさってください。
(ダウンロードの際は右側の矢印のところをクリックして保存してください)


東京創元社_ビブリオバトル.pdf 直


東京創元社_隠し玉.pdf 直


集英社_ビブリオバトル.pdf 直


集英社_隠し玉.pdf 直


小学館_ビブリオバトル.pdf 直


小学館_隠し玉.pdf 直


早川書房_ビブリオバトル.pdf 直


早川書房_隠し玉.pdf 直


文藝春秋_ビブリオバトル.pdf 直


文藝春秋_隠し玉_オモテ.pdf 直


文藝春秋_隠し玉_ウラ.pdf 直

授賞式企画「七福神でふりかえる翻訳ミステリーこの一年」レポート

 
 去る4月19日、東京・本郷でひらかれた「第五回翻訳ミステリー大賞授賞式&コンベンション」では、大賞の公開開票式に先立って七福神でふりかえる・翻訳ミステリーこの一年」がおこなわれました。
 

 当サイトの人気コーナー「書評七福神の今月の一冊」は、いずれ劣らぬ読書の目利きたちが前月に読んだ翻訳ミステリーのなかからそれぞれのイチ推しを選ぶというもの。
 当日は「七福神」から北上次郎、川出正樹、酒井貞道の各氏が登場、われらが杉江松恋を司会に、第五回翻訳ミステリー大賞の対象期間に刊行された翻訳ミステリーから七福神がえらんだ作品を中心に、一年間の翻訳ミステリー界をふりかえることになりました。

 
 当日は四人それぞれが熱い思いでイチ推し作品を推薦する場面あり、たくまざるユーモアに満ちた発言に会場がおおいにわくひと幕もありました。好きな本のことならいくら話してもまだまだ語り足りないようすの四人でしたが、予定時間はあっという間に過ぎていきました。
 
 最後に、第五回翻訳ミステリー大賞の最終候補7作から、四氏が強く推す作品を挙げていただきました。結果は以下のとおりです。

  • 北上次郎スティーヴン・キング『11/22/63』
  • 川出正樹氏:フェルディナント・フォン・シーラッハ『コリーニ事件』
  • 酒井貞道氏:フェルディナント・フォン・シーラッハ『コリーニ事件』
  • 杉江 松恋: アーナルデュル・インドリダソン『緑衣の女』

 
 当日は該当期間内の七福神選定作品一覧」を来場者のみなさまにお配りしました。おなじ内容の一覧表を、この記事の末尾に添えてあります。
 
 一覧表が見づらい方は、以下のリンクから PDFファイルをダウンロードしてください。
七福神選定作品.pdf 直
(ダウンロードの際は右側の矢印をクリックして保存してください)
 
 

 つづいて特別ゲストのマライ・メントラインさんが登壇。ミステリマガジンの洋書紹介欄、NHKの『テレビでドイツ語』や『まいにちドイツ語』への出演、テキスト掲載のエッセイでもおなじみ。サイト『YG IN JAPAN』ではドイツのミステリーの最新情報をつたえる連載エッセイ「マライ•de•ミステリ」を連載中です。
「ドイツ・ミステリ応援係」をもって任じているマライさんのトークのテーマは《翻訳ミステリー大賞候補作品はドイツでどう評価されているか?》でした。
 
 マライさんはテンポのいい、ウィットに満ちた語り口で、おもにドイツ・アマゾンのカスタマーレビューを参考に、候補作それぞれがドイツでどのように読まれているのかを紹介してくださいました。日本とおなじように各候補作を「翻訳ミステリー」として読んでいるドイツの読者たちの感想には、わが国に通じるところもあり、また異なるところもあり、なかなか興味深いものでした。
(写真:事務局)
 
 当日配布したマライさん作成の資料(ドイツミステリ参謀本部プレゼンツ!)の総括部分には、以下のように記載されています。

【総括・そしてドイツ読書文化の特徴など】

  • amazonではとにかくレビュー数が多い! 『シスターズ・ブラザーズ』の8件も、日本では普通だがドイツでは「少なっ!」という印象。
  • 「本は分厚いほど偉い。そしてお買い得である」という妙な通念がある。そういう人が『コリーニ事件』を「薄い!」と酷評したりする。
  • 「あ、俺この風景知ってるよ!」的な旅情系読者がけっこう多い。その再現性が低いと(または見解が違うと)酷評したりする。
  • ゴーン・ガールへの反応が最たるものだが、いわゆるジャンルミステリの枠を超えようとする作品への拒絶反応がけっこう目立つ。
  • オーディオブックが普及していることが書物レビューからもうかがえる。売れ筋の作品は書物とCDが同時発売されることも多い。
  • 原題を、ネタバレ的な感じに改題してドイツ語版を出す出版社のセンスのなさは何とかしてほしい。さすがダサ系大国ドイツ!(涙)

 
 ご興味のある方は、ぜひ以下のリンクから PDFファイルをダウンロードして(拡大表示して)ごらんになってください。
翻訳ミステリー大賞2014ドイツ陣営資料.pdf 直
(ダウンロードの際は右側の矢印をクリックして保存してください)
 
 

書評七福神選出作品一覧
(2012年11月度〜2013年10月度)

  • 「月度」はおおむねその月の新刊であることを示すが、例外もある。
  • 「月度」の部分は、該当する七福神記事へのリンク。
  • 第五回翻訳ミステリー大賞の対象作品は「奥付=2012年11月1日〜2013年10月30日」のもの。
  • 太字は第五回大賞最終候補作、青字は、第二回読者賞受賞作。

月度 北上次郎 吉野 仁 千街晶之 霜月 蒼 酒井貞道 川出正樹 杉江松恋
2012 11 宙(そら)の地図
(F・J・パルマ)
宙(そら)の地図
(F・J・パルマ)
葡萄色の死 警察署長ブルーノ(M・ウォーカー) 2666
(R・ボラーニョ)
葡萄色の死 警察署長ブルーノ(M・ウォーカー) 世界が終わるわけではなく(K・アトキンソン) 祖母の手帖
(M・アグス)
2012 12 葡萄色の死 警察署長ブルーノ(M・ウォーカー) 喪失
(M・ヘイダー)
喪失
(M・ヘイダー)
喪失
(M・ヘイダー)
喪失
(M・ヘイダー)
終わりの感覚
(J・バーンズ)
チェットと消えたゾウの謎(S・クイン)
2013 1 消えゆくものへの怒り
(B・マスターソン)
六人目の少女
(D・カーリッジ)
1922
(S・キング)
アウトロー
(L・チャイルド)
終わりの感覚
(J・バーンズ)
あの夏、エデン・ロードで(G・ジャーキンス) 護りと裏切り
(A・ペリー)
2013 2 ライアンの対価(T・クランシー&M・グリーニー) 遮断地区
(M・ウォルターズ)
遮断地区
(M・ウォルターズ)
護りと裏切り
(A・ペリー)
遮断地区
(M・ウォルターズ)
遮断地区
(M・ウォルターズ)
とうもろこしの乙女、あるいは七つの悪夢
(J・C・オーツ)
2013 3 夜に生きる
(D・ルヘイン)
ジャッキー・コーガン
(G・V・ヒギンズ)
青雷の光る秋
(A・クリーヴス)
アイス・ハント
(J・ロリンズ)
ファイナル・ターゲット
(T・ウッド)
マルセロ・イン・ザ・リアルワールド
(F・X・ストーク)
青雷の光る秋
(A・クリーヴス)
2013 4 暗殺者の正義
(M・グリーニー)
暗殺者の正義
(M・グリーニー)
赤く微笑む春
(J・テオリン)
暗殺者の正義
(M・グリーニー)
コリーニ事件
(F・フォン・シーラッハ)
黄金の街
(R・プライス)
神は死んだ
(R・カリー・ジュニア)
2013 5 白雪姫には死んでもらう(R・ノイハウス) シスターズ・ブラザーズ
(P・デウィット)
白雪姫には死んでもらう(R・ノイハウス) シスターズ・ブラザーズ
(P・デウィット)
半島の密使
(A・ジョンソン)
シスターズ・ブラザーズ
(P・デウィット)
シスターズ・ブラザーズ
(P・デウィット)
2013 6 ジェイコブを守るため
(W・ランデイ)
崩壊家族
(L・バークレイ)
ミステリガール
(D・ゴードン)
GATACA
(F・ティリエ)
チャーチル閣下の秘書
(S・I・マクニール)
ミステリガール
(D・ゴードン)
ミステリガール
(D・ゴードン)
2013 7 緑衣の女
(A・インドリダソン)
ジェイコブを守るため
(W・ランデイ)
消滅した国の刑事(V・フライシュハウアー) チャイルド・オブ・ゴッド(C・マッカーシー) チャイルド・オブ・ゴッド(C・マッカーシー) 刑事たちの三日間
(A・グレシアン)
ミスター・ピーナッツ
(A・ロス)
2013 8 ゴッサムの神々
(L・フェイ)
甦ったスパイ
(C・カミング)
刑事コロンボ13の事件簿 黒衣のリハーサル(W・リンク) ドッグ・ファイター
(M・ボジャノウスキ)
ゴッサムの神々
(L・フェイ)
名もなき人たちのテーブル(M・オンダーチェ) ドッグ・ファイター
(M・ボジャノウスキ)
2013 9 氷の娘
(L・レヘトライネン)
11/22/63
(S・キング)
レッド・スパロー
(J・マシューズ)
11/22/63
(S・キング)
レッド・スパロー
(J・マシューズ)
ハンティング
(B・バウアー)
葬送の庭(T・フレンチ)
2013 10 暗殺者の鎮魂
(M・グリーニー)
狼の王子
(C・モルク)
三秒間の死角(ルースルンド&ヘルストレム) 暗殺者の鎮魂
(M・グリーニー)
スノーマン
(J・ネスボ)
三秒間の死角(ルースルンド&ヘルストレム) 三秒間の死角(ルースルンド&ヘルストレム)



 
 

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