第41回 これぞヴィクトリアン・イケメン祭り―『怪盗紳士モンモランシー』シリーズ(執筆者・♪akira)

  
 全国の腐女子の皆様とそうでない皆様、こんにちは! 今年もよろしくお願いします。
 新年第一回目は、エレナー・アップデール『怪盗紳士モンモランシー』『怪盗紳士モンモランシー2 ロンドン連続爆破事件』(訳・杉田七重/創元推理文庫)のヴィクトリアン・イケメン祭りシリーズ二作を一挙ご紹介いたします! 
 

怪盗紳士モンモランシー (創元推理文庫)

怪盗紳士モンモランシー (創元推理文庫)

 初登場の舞台は1875年。ロンドンにある刑務所の療養所で、全身が手術の傷あとだらけの若い男が目を覚まします。男の名前はモンモランシー。一年前、窃盗で警察から逃げていた時に工場の天窓を踏み抜いてしまい、硬い研磨機の上に落下して大怪我をします。瀕死の彼を救ったのは、若き外科医ロバート・ファーセットでした。王立大学卒のエリート医師であるロバートは、肉塊と化した泥棒を自分の研究対象とし手厚く治療した結果、見事治すことに成功します。その後、研究の成果を見せるため、ロバート医師は症例として服役中のモンモランシーを会合や講義に連れ出しましたが、全裸で横たわるモンモランシーは、その場で飛び交う医学や科学の知識をむさぼるように吸収していったのです。中でも特に彼の興味をひいたのは、ロンドンの地下に作られたばかりの下水道に関する詳細な情報でした。
 
 怪我も治り、モンモランシーはおつとめを終えてシャバに出ます。ムショでの強制労働で筋肉がついた彼は、スカーパーという別名で下宿を借り、実験台となっていたあいだに得た知識で、汚水の流れるロンドンの地下を縦横無尽に動き回り、マンホールを“どこでもドア”のように使ってはスムーズに盗みを繰り返し、あっというまに戦利品を増やしていきました。
 
 さてここからが本書の面白いところです。スリや置き引きを卒業し(?)、今や神出鬼没の怪盗となったモンモランシーでしたが、せっかくのお宝も故買屋に叩かれたり、足がついたりしたら元も子もありません。そこで考えたのが、自ら上流社会の人間になること! 身なりを紳士風に整えて宝石屋に赴いて上品にふるまい、やむをえず手持ちの宝石を手放すという芝居が成功したところ、これが意外に楽しい! そこで彼は、紳士モンモランシーとその従者スカーパーという一人二役で、ハイドパークにある高級ホテルに滞在を決めます。夜はスカーパーとなり、ボロ下宿から下水道に出勤。一仕事終えると今度はこっそりとホテルに戻り、紳士としての生活を始めるのです。経済的に余裕ができたモンモランシーは、自分でも意外なことにオシャレに興味がわき、あれやこれやと楽しそうにショッピングをしたり、さらにはオペラにはまってしまったりと、新しい人生を謳歌します。<盗んだお金ですけどね!
 
 そんなスリリングな二重生活を送っていたモンモランシーに、ある日大きな転機が訪れます。暴れ馬を止めて、馬車の乗客らを救ったのです。乗っていたのは、ジョージ・フォックス・セルヴィン卿という貴族。その足の小ささからは想像もつかない巨漢(そしてイケメン)で、少女マンガチックな出会いをしたモンモランシーのことをすっかり気に入りました。それ以来二人は友人となりますが、実はジョージにももう一つの顔があり、そこからモンモランシーは思いもよらない人生を歩み始めることとなります。
 
怪盗紳士モンモランシー2 (ロンドン連続爆破事件) (創元推理文庫)

怪盗紳士モンモランシー2 (ロンドン連続爆破事件) (創元推理文庫)

 前作から5年がたった続編では、モンモランシーはジョージと訪れたトルコで麻薬中毒になってしまいます。友人をなんとかして救おうとするジョージの努力もむなしく、重い禁断症状に苦しむモンモランシー。専門家に頼むしかない、と友人のロバート医師を訪ねますが、彼は手術ミスで患者を死なせてしまい、医者としての自信をすっかり失っていたのでした。
 
 出所後のモンモランシーの消息を知らないロバート、ジョージとロバートの関係を知らないモンモランシー、そしてモンモランシーの過去を知らないジョージ。この三人が初めて一堂に会するシーンを含め、波乱ずくめの本書は、前作よりもかなりミステリ色が濃くなっています。ロンドンでは爆破事件、スコットランドの孤島では原因不明の乳児死亡事故が続き、それに関わる三人の運命は意外な方向に転がっていきます。
 
 そしてありがたいことに、続編は萌えポイント倍増なのですよ!!
 
 一作目でもそれなりにナイスな場面はあったのですが、今回は、看病とか叱咤激励とか狭いベッドで云々とか(ここはぜひ本書で!)、三人の誰かしらのサービス場面(?)が満載でたまりません! そんな中でも、ある人が言った――
 

「意識がもどった瞬間に、ぼくの顔が見えるというのは、彼にとって世界一自然なことだ。」

  
 ――こんなセリフ、深読みするなって方が無理なんですが!!!
 
 それが考えすぎかどうか(いえ絶対に考えすぎですが)を確かめるだけでなく、島の事件の謎解きや、前作で強烈な印象を残したキャラがまさかのXXとか、萌え要素以外も十分楽しめますので、2作あわせてぜひご一読下さいませ。
 


 さて、モンモランシーは怪盗と紳士の二つの顔を持っていましたが、1月21日公開のザ・コンサルタントの主人公クリスチャン・ウルフ(ベン・アフレック)は、表向きは田舎のショボい公認会計事務所を営んでいる会計士ですが、その実体はなんと、ありとあらゆる殺しの技能を備えた凄腕の”掃除屋”。しかも何がすごいって、ウルフは見かけだけの会計士じゃなくて、超天才的な会計監査能力を持っているんですよ!! ライフルを撃てば百発百中、素手でも瞬時に相手を倒し、なおかつ経理でも食べていける……って、向かうところ敵なしじゃないですか!!! 実はウルフは裏社会の会計コンサルタントも請け負っていているのですが、その実力を知っている親分たちは彼に手出しをせず、同業の連中に推薦までするという繁盛ぶり(笑)。しかし今回受けたカタギの仕事で、大企業の帳簿のミスを見つけたデイナ(アナ・ケンドリック)とウルフは何者かに命を狙われることに……。
『ウォーリアー』のギャビン・オコナー監督だけあって重量級の格闘シーンはかなり見応えがありますし、ひたすら口を真一文字に結んだベン・アフレックの表情は必見です! そしてとにかく脚本が面白い! いや〜、まさかあれがああなってあんなフィニッシュになるとは思いもしませんでした。皆様もどうぞ劇場でびっくりしてください!
 
映画『ザ・コンサルタント』本予告

 
映画『ザ・コンサルタント』本編映像【1】

 
映画『ザ・コンサルタント』本編映像【2】

 
映画『ザ・コンサルタント』本編映像【3】

 

 

 

    
akira


  BBC版シャーロックではレストレードのファン。『柳下毅一郎の皆殺し映画通信』でスットコ映画レビューを書かせてもらってます。トヨザキ社長の書評王ブログ『書評王の島』にて「愛と哀しみのスットコ映画」を超不定期に連載中。
本の雑誌404号2017年2月号

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怪盗紳士モンモランシー (創元推理文庫)

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