第七十九回はカール・ハイアセンの巻(執筆者・東野さやか)
あちこちで言っていますが、わたしの好きな作家はロバート・クレイス、S・J・ローザン、ジョージ・(いつのまにかPがなくなった)・ペレケーノスが不動の3人で、ここにマイクル・コナリーが隙あらば割って入ろうと、虎視眈々とねらっているといったところ。そしてそのちょっとあとに何人かいるのですが、そのひとりがカール・ハイアセンです。いいですよねー、ハイアセン。善人側も悪人側も奇人変人ばかりで、ストーリーも奇想天外。漫画チックでユーモアたっぷりながらも、ちゃんと話に環境問題をからませていて、そういう筋が一本とおっているところがかっこよくてすてきです。
今回ご紹介するのは、そのハイアセンの未訳書。『これ誘拐だよね』(田村義進訳/文春文庫)の次の "BAD MONKEY"(2013)かな、ひょっとして、《ニューヨーク・タイムズ》のベストセラー入りしていた最新作の "RAZOR GIRL" (2016) かな、と思うかもしれませんが、どちらもはずれ。ハイアセンがジュニア向けに書いた作品で "SKINK -- NO SURRENDER" (2015)です。ファンならば、タイトルだけで前のめりになりませんか。そう、『大魚の一撃』(真崎義博訳/扶桑社ミステリー)で初登場し、その後もハイアセンの著作にたびたび登場しているあのスキンクが活躍するお話なんです。
Skink No Surrender (English Edition)
- 作者: Carl Hiaasen
- 出版社/メーカー: Orion Children's Books
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マイアミに暮らすリチャードは自然保護に熱心な14歳。ウミガメの産卵の季節のいまは毎夜、ビーチのパトロールに励んでいます。ある晩、彼は、ウミガメの巣からストローが一本突き出ているのに気づきます。近寄ってみると、ストローの先から生温かい空気が漏れています。不審に思って引っ張ったところ、砂から大男が飛び出してきました。それも、ひげ面で右目は義眼、頭には花柄のシャワーキャップをかぶった男が。実はこの男、ウミガメの卵を盗む不埒な輩を捕まえるため、巣に見せかけた場所にひそんでいたのです。これがリチャードとスキンクとの出会いでした。
このころ、リチャードのいとこで同い年のマレーに連絡がつかなくなります。どうやら、親には秋から通う寄宿学校のオリエンテーションがあると嘘をつき、インターネットで知り合った男性に会いに行ったもよう。しかし、その男性が名乗った名前はアフガニスタンで戦死した男性のものと判明し、リチャードは嫌な予感をおぼえます。やがて警察もマレーの行方を追うものの、携帯電話の信号も途中で途絶え、捜査は難航します。
そんなおり、ウミガメの卵を盗もうとした犯人を捕まえたスキンクが、次なるプロジェクトとしてマレーの行方を捜すと宣言し、リチャードも同行することに。ふたりはハシジロキツツキを見たというマレーの言葉をヒントに、その鳥がフロリダ州内で唯一棲息している場所、すなわちアラバマ州南部からフロリダ・パンハンドルに流れこむチョクタハッチー川沿いの密林に向かうのですが……。
とまあ、ジュニア向けの本なので、ストーリーはこんなふうにとてもシンプル。悪い男に連れ去られたいとこを救出しようと、スキンクとリチャードが大冒険を繰り広げるのですが、その道中がおもしろかったり、いろいろと考えさせられたりと盛りだくさんです。ハイアセンはこれまでにも『HOOT(ホー)』、『フラッシュ』、『スキャット』(いずれも千葉茂樹訳/理論社)などジュニア向けの本を出していて、スキンクをうんとマイルドにしたキャラクターを登場させていますが、やはり本人が出ると、ハイアセンらしさがぐっと増しますね。トラックに轢かれそうになったスカンクを救うかわりに自分の足を轢かれたり、食べようとした魚を盗んだアリゲーターと川で格闘したりと、そのぶっとんだキャラクターにはかえって安心してしまいます。そうそう、車に轢かれた動物の死骸を食べて相手をびっくりさせるのもあいかわらずです。そうかと思えば、リチャードにレイチェル・カーソンの『沈黙の春』を読めと勧めたり。さすがはスキンク、子ども相手でもぶれないですねえ。
『大魚の一撃』で登場したときのスキンクは40代後半から50代前半”と描写されていますが、この "SKINK -- NO SURRENDER" では73歳になっています(72歳と言ったところ、ウィキペディアで調べたリチャードに73歳だと訂正されるシーンがあります)。それでも強靱な体をたもっているし、自然を壊すやつはおれが許さんという強い信念はちっとも変わりません。若い読者の目にも彼がかっこいいおじいちゃんと映ってほしいものです。
東野さやか(ひがしの さやか) |
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兵庫県生まれの埼玉県民。洋楽ロック好き。最新訳書はジョン・ハート『終わりなき道』(ハヤカワ・ミステリ)。その他、ブレイク・クラウチ『ラスト・タウン―神の怒り―』(ハヤカワ文庫NV)、ローラ・チャイルズ『プラム・ティーは偽りの乾杯』(コージーブックス)など。埼玉読書会および沖縄読書会世話人。ツイッターアカウントは @andrea2121 |
【原書レビュー】え、こんな作品が未訳なの!? バックナンバー一覧
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