第30回 冬の出血大サービス!雪中大量殺人――『ムーンズエンド荘の殺人』(執筆者・♪akira)

 
 全国の腐女子の皆様とそうでない皆様、こんにちは!
 バレンタインデーはいかがお過ごしでしたか? バレンタインといえば、まず連想するのが血のバレンタイン(*)だという方もいらっしゃるかと。<それは私 そんなわけで今回は、冬の出血大サービスならぬ、雪中大量殺人もの、エリック・キース『ムーンズエンド荘の殺人』(森沢くみこ訳/創元推理文庫)をご紹介します!
 

ムーンズエンド荘の殺人 (創元推理文庫)

ムーンズエンド荘の殺人 (創元推理文庫)

 陽光輝くロサンジェルスから500キロ離れた、ひなびた鉄道駅。列車から降りたのは、15年前に探偵学校を卒業した生徒たちだった。探偵業を営んでいる者もいれば、まったく違う職業についた者、事故で車椅子生活を送る者、以前の面影が見当たらない者もいた。校長から、別荘で行われる同窓会の案内状を受け取った彼らは、雪に閉ざされた山上の別荘へと案内される。親交を暖めるどころか、陰険な雰囲気が漂う彼らの前に現れたのは、一つの他殺死体。助けを呼ぼうにも電話線は遮断、ネットも不通、携帯は圏外。おまけに唯一外界につながるつり橋が、何者かの手で爆破されてしまった。八方ふさがりの客たちのもとに、殺人予告のメッセージが届けられる。
 
 このサイトの愛読者の方々ならば、アガサ・クリスティーの名作そして誰もいなくなった、映画ファンの方なら、推理パロディの傑作名探偵登場(1976年/米)をまっさきに思い出されることでしょう。ご明察の通り、世間から隔絶された山荘内で集った人々が次々に消されていくという、王道の本格ミステリ! 
 
 過去にトラウマを持つ私立探偵、その彼の元相棒(イケメン)、探偵学校の校長、校長の弟、犯罪王のボディガードをやっているマッチョ、根暗な密輸業者、元司祭、超常現象主義の作家の男性8人と、地方検事代理と医療アドバイザーの女性が2人。そのうち1人が早々に遺体で発見されたため、残る9人で犯人当て推理合戦が始まります。なにせ全員が探偵学校出身。謎解きをするのも、殺人を犯すのも(?)、お手のものというつわものぞろい。そんな状況下で、ひとり、またひとりと犠牲者が……。
 
 どうやら登場人物全員がなんらかの秘密を隠している様子。調べていくうちに、今回の招待は昔のある事件が発端だと気づき、そこから少しずつ真相に近づいていくのですが、殺人者の魔の手は容赦なく伸びてきます。誰が敵で誰が味方かわからない中、できれば1人でも信用したいと思うのは当然。この物語では、以前一緒に探偵をやっていたブライアンを、親友だったジョーナスは信じたくて仕方がないのですが、でも……と逡巡するところがかなりの萌えどころなのですよ!
 他にも、もしかしてあの人、昔この人に嫉妬してた?みたいなニュアンスが感じられる箇所があったり、考えれば考えるほど腐ポイントが見つかるので、作者の意図とは別のところで楽しんで下さい!
 
 屋敷の見取り図をチェックしたり、目撃者の証言に付箋を付けたりと、本格的に謎解きに取り組むのもよし、勝手に不可読みしすぎてキャラ萌えするもよし。<ルックスが好きなだけ盛れるのも小説のいいところ! 長編流行りの昨今、300ページで綺麗にフィニッシュ!というのも嬉しいかぎり。軽くて持ち歩きも便利なので、旅のおともなどにいかがでしょうか。
 
 さて、映画界にも久しぶりに超ビッグな雪の山荘案件がやってきました! あのクエンティン・タランティーノ監督の最新作ヘイトフル・エイトです!
 

 
 吹雪のなか先を急ぐ駅馬車の前に、1人の男が現れる。凍った死体に座って待っていたのは、賞金稼ぎのマーキス(サミュエル・L・ジャクソン)だった。馬車に乗っていたのは同じく賞金稼ぎのジョン(カート・ラッセル)と、手錠につながれた女デイジージェニファー・ジェイソン・リー)。。交渉の結果なんとか乗り込んだマーキスらを乗せた馬車は、この界隈で唯一の商店、ミニーの紳士洋品店に向かうが、そのロッジには怪しげな男たちが集まっていた……。
 

 
 一寸先は闇ならぬ猛吹雪のため、ロッジは密室状態。凍死か殺人の二択状況で、予想どおりに登場人物が次々と殺されていくわけですが、この死に様がすごい! まるで谷岡ヤスジのマンガ(古い)かというぐらい、景気よく血しぶきが飛びまくります! まさに文字通りの血祭り!!
 

 
 タランティーノ初の本格ミステリとうたわれているこの映画、実は堂々とノックスの十戒をやぶっているので、そこは大目に見てください(笑)。でもちゃんとラストでは謎解きします! とはいえ、むしろミステリ慣れしている人ほど、犠牲者の死ぬ順番を当てられないのでは。そういう意味で裏切られる快感もありますよ!
 

 
 出演も、ティム・ロスブルース・ダーンマイケル・マドセンなど、誰が犯人でもおかしくない面構えのメンツ。この映画のためにエンニオ・モリコーネが作った音楽は、ゴールデン・グローブ賞など主要3つの映画賞で作曲賞を受賞。近々発表されるアカデミー賞でも候補に選ばれました。ムード満点の音楽をバックに、目に焼き付いて離れない純白の雪と真っ赤な鮮血の見事なコントラストは、見事にセルジオ・コルブッチ監督作『殺しが静かにやってくる』のオマージュとなっています。密室の血なまぐさい推理劇と、ラストで明らかになる驚きの真相をご堪能下さい。
 
■映画『ヘイトフル・エイト』最新予告映像 ■

 
(*)1981年のカナダ映画。略称『血バレ』。バレンタインデーに炭鉱で起きた猟奇殺人事件は、20年後の同じ日に再び惨劇の幕を開けるというスラッシャー映画。続編のブラッディ・バレンタイン 3D』は飛び出てほしいところが惜しげもなく飛び出るという正しい3D映画でした。
 

■監督・脚本:クエンティン・タランティーノ 
■音楽:エンニオ・モリコーネ 
■美術:種田陽平 
■出演:サミュエル・L・ジャクソンカート・ラッセルジェニファー・ジェイソン・リーウォルトン・ゴギンス、デミアン・ビチルティム・ロスマイケル・マドセンブルース・ダーン
■配給:ギャガ  
■公式サイト: gaga.ne.jp/hateful8.
 
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akira


  BBC版シャーロックではレストレードのファン。『柳下毅一郎の皆殺し映画通信』でスットコ映画レビューを書かせてもらってます。トヨザキ社長の書評王ブログ『書評王の島』にて「愛と哀しみのスットコ映画」を超不定期に連載中。

 

 

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