第29回『真夜中のデッド・リミット』の巻(執筆者・東京創元社S)

 
 みなさまこんにちは。前回からずいぶん間が空いてしまい恐縮ですが、「冒険小説ラムネ」をお届けいたします。いやはや、気づけばキンモクセイ香るこんな時期に……。次回はもっとがんばります。
 
 さて、わたしの懺悔タイムはこのくらいにして、今回の課題書のご紹介を……と思ったのですが、久しぶりすぎて最近翻訳ミステリー大賞シンジケートを閲覧するようになった方にはわけがわからんのでは!? ということに気づきました。
 念のためご説明いたしますが、この連載は「冒険小説初心者の女子が北上次郎さん推薦の課題書を読んで感想を書く」というものです。とはいえ、いつのまにか連載29回にもなっているのが自分でも驚きです。しかし初心を忘れず(?)今回も楽しくミーハーに感想をお伝えしていきたいと思います!
 

【毎月更新】冒険小説にはラムネがよく似合う【初心者歓迎】バックナンバー

 
 今回の課題書はスティーヴン・ハンター『真夜中のデッド・リミット』です! まずはあらすじを……。
 

真夜中のデッド・リミット〈上巻〉 (新潮文庫)

真夜中のデッド・リミット〈上巻〉 (新潮文庫)

真夜中のデッド・リミット〈下巻〉 (新潮文庫)

真夜中のデッド・リミット〈下巻〉 (新潮文庫)

 アメリカ・メリーランド州の山中深く埋められた核ミサイル発射基地。難攻不落のこの基地が、謎の集団に占拠された。最新鋭核ミサイルの発射を阻止するためには、基地へ侵入するしかない。ミサイル発射までに残された時間は十数時間。基地奪回に出動した歴戦の勇士プラー大佐率いる特殊部隊デルタ・フォースは世界の終末を救えるのか…。息づまり迫力で描く大型軍事サスペンス。(上巻のあらすじより)

 
 久しぶりに「読み終えたくない!」という作品に出会いましたよ!! 上下各400ページくらいとたいへんボリュームのある小説なのですが、それをまったく感じさせない圧倒的なリーダビリティ。おまけにタイトルが象徴しているように、タイムリミット・サスペンスでもあるわけですから、ページをめくりはじめればあとは一気読みです。まるで濃密なアクション映画を観たような気分でした。
 
 そしてこの小説、とにかく謎が多い! これがもうミステリファンにはたまらないな〜と思います。筋としては単純で、「テロリストに核ミサイル発射基地が占拠されたから取り返さなくちゃ!」っていうだけの話なんですよ。でも数々の謎を設定し、それをちょっとずつ明らかにしていくという構成なので、ものすごーくミステリアスな物語になっているのです。冒頭からどんどん提示されていく謎が、ネタバレにならない程度にご紹介するだけでもこんなにあるんですよ!
 

  • 核ミサイル発射基地を襲った謎の集団の正体は?
  • 難攻不落のはずの核ミサイル発射基地をどうやって占拠したのか? 基地内部の情報はどこから漏れたのか?
  • 核ミサイル発射管制室を謎の集団から取り戻すために必要なコード番号(暗号)とは?
  • そもそも謎の集団は核ミサイルを手に入れてどうするのか?
  • 核ミサイル発射基地占拠事件とはまったく関係なさそうなある人物のエピソードはいったい何なのか?

 
 とまあ、挙げていけばきりがないほどです。これらの謎がメインの奪還作戦を盛り上げつつ、特殊部隊員デルタ・フォースと謎のテロリスト集団との白熱した戦闘シーンもあります。戦闘シーンはまさに手に汗握って読みました〜。どちらも戦闘に長けた特殊部隊という設定なので、お互いの出方をうかがう読み合いもすごいのです。デルタ・フォースを率いるディック・プラー大佐が一癖も二癖もある人物なのもいいんですよね。こういう上司の下で働くのってたいへんそうだなぁ、と人ごとのように考えていました。
  
 プラー大佐をはじめ、人間味あふれる印象的な登場人物ばかりなんですが、さらに「群像劇的手法」を用いて書かれているという点がいいなと思います!
 
 読みはじめてからすぐに、さまざまな人物の視点で物語が進んでいくことに気づきました。核ミサイル発射基地の職員、特殊部隊デルタ・フォースのトップや隊員、FBI特別捜査官、ミサイル基地建設に携わった学者、さらには謎の集団の指揮官〈大佐〉やその部下まで! 本文が短い章の連なりで書かれており、登場人物表に掲載されている20人以上のほとんどが視点人物になっているのです。しかも敵味方を問わない、まさに群像劇。
 
 わたしが特にすごいなーと思ったのが、「敵の視点の章があるのに彼らの正体がわからない」というところですね。謎の集団が核ミサイル発射基地を襲うシーンを読んでも、彼らがどういう集団で、何を目的としているのかがさっぱりわからない。だからこそ気になって気になって、どんどん先を読み進めてしまうんです。
 
 もちろん彼らの正体は物語が進んでいくと明かされるわけですが、その情報開示のタイミングが見事です。彼らの正体が明らかになると同時に、「核ミサイル発射基地占拠事件とはまったく関係なさそうなある人物のエピソード」がある必然性がわかるんですよ! いやー、何かしら関係あるんだろうと思って読んでましたが、こんな繋がりがあったとは! とにかくびっくりしました。
 
 そして、この「群像劇的手法」で書かれた物語を突き詰めて考えていくと、「主人公って誰なんだろう?」という疑問に思い至ります。
 
 この作品は、明確な主人公がいない気がします。すくなくとも、わたしにはわからなかったです。強いて言えばプラー大佐なのかなぁ。でも登場人物それぞれにドラマがあり、味方のデルタ・フォース隊員はもちろん、敵の謎の集団のメンバーにも感情移入して読めてしまいました。敵さんにもいろいろ事情があるよね、みたいな。
 
 ということは、作中でいつ誰が死ぬか予想がつかないってことなんですよね(遠い目)。よく少年漫画や何かで「主人公補正」というものがありますが、小説でもまず「主人公は死なない」というのがセオリーではないでしょうか。もしくはメインキャラクターは生き残る、とか。まあ、それをあえてひっくり返す作家さんも多いですが……。
 
 物語の最後までくると、激闘の末、たくさんの人物が倒れていったのだということがわかります。誰が死んで誰が生き残るのか、わくわくしつつ読めますよ(にっこり)! でも、ネタバレになるので具体的に誰かは秘密ですが、わたしのお気に入りだったキャラクターの最期が思った以上にさらっと書かれていたので、せつなさMAXでした。スティーヴン・ハンターさん、鬼畜の所業や……と涙にくれました。フィクションですが、戦って死んでいった彼らに黙祷を捧げたいような、そんな不思議な気持ちにさせてくれた作品でした。
 
 ほんと、「お見事ですっ……!」としかいいようがない傑作でしたね。申し上げたとおり登場人物が多いうえ、視点の切り替わりが激しいので、最初はとっつきにくく感じる方もいるかもしれませんが、慣れると一気読みです。あ、そうそう、キャラクターの名前が覚えられない! という方は、東京創元社〈WEBミステリーズ!〉「翻訳ミステリについて思うところを書いてみた。その1・これ絶対覚えられないだろ! という登場人物名の覚え方」という記事を書いたことがあるので、よかったら参考にしてみてくださいね(宣伝)。
 
 なんかこう、骨太の小説が読みたいなーというときにおすすめです! ぜひ手にとってみてください。
  

北上次郎のひとこと】

 
『真夜中のデッド・リミット』は、1986年に『さらば、カタロニア戦線』で日本に初紹介されたスティーヴン・ハンターの翻訳弟2弾。その後、ハンター作品は数多く翻訳されているが(2008年から毎年1作ずつ扶桑社ミステリーから刊行されている。ただし、2014年だけお休み)、それらから1作選べば、1999年に翻訳された『狩りのとき』。ボブ・リー・スワガーが活躍する1篇だが、動→静→動のリズムが素晴らしい。これがアクションだ。世評では『極大射程』の評判がいいが、それは好みでわかれるだろう。
 
 

東京創元社


小柄な編集者。日々ミステリを中心に翻訳書の編集にいそしむ。好きな食べ物は駄菓子のラムネ。東東京読書会の世話人もしております。〈Webミステリーズ!〉で翻訳ミステリについて語る&おすすめ本を紹介する連載「翻訳ミステリについて思うところを書いてみた。」をはじめました。TwitterID:@little_hs
 

さらば、カタロニア戦線〈上〉 (扶桑社ミステリー)

さらば、カタロニア戦線〈上〉 (扶桑社ミステリー)

さらば、カタロニア戦線〈下〉 (扶桑社ミステリー)

さらば、カタロニア戦線〈下〉 (扶桑社ミステリー)

狩りのとき〈上〉 (扶桑社ミステリー)

狩りのとき〈上〉 (扶桑社ミステリー)

狩りのとき〈下〉 (扶桑社ミステリー)

狩りのとき〈下〉 (扶桑社ミステリー)

極大射程 上 (扶桑社ミステリー)

極大射程 上 (扶桑社ミステリー)

極大射程 下 (扶桑社ミステリー)

極大射程 下 (扶桑社ミステリー)

我が名は切り裂きジャック(上) (扶桑社ミステリー)

我が名は切り裂きジャック(上) (扶桑社ミステリー)

我が名は切り裂きジャック(下) (扶桑社ミステリー)

我が名は切り裂きジャック(下) (扶桑社ミステリー)

スナイパーの誇り(上) (扶桑社ミステリー)

スナイパーの誇り(上) (扶桑社ミステリー)

スナイパーの誇り(下) (扶桑社ミステリー)

スナイパーの誇り(下) (扶桑社ミステリー)

第三の銃弾 (上) (扶桑社ミステリー)

第三の銃弾 (上) (扶桑社ミステリー)

第三の銃弾 (下) (扶桑社ミステリー)

第三の銃弾 (下) (扶桑社ミステリー)

 

第28回『ファイアフォックス・ダウン』の巻(執筆者・東京創元社S)

 
 みなさまこんにちは。ラムネとフェレットをこよなく愛する翻訳ミステリ編集者のSです。今回の課題書はクレイグ・トーマス『ファイアフォックス・ダウン』です。
 

ファイアフォックス・ダウン〈上〉 (ハヤカワ文庫NV)

ファイアフォックス・ダウン〈上〉 (ハヤカワ文庫NV)

ファイアフォックス・ダウン〈下〉 (ハヤカワ文庫NV)

ファイアフォックス・ダウン〈下〉 (ハヤカワ文庫NV)

 まずお断りしておきたいのが、本書は前回『ファイアフォックス』の続編であるということ。続編というか“実は事件は終わってなかった!”という体裁の小説ですので、本に書かれているあらすじからして、『ファイアフォックス』の結末に思いっきり触れています。ネタバレを気にする方は、お気をつけくださいませ。
 
 よござんすね? ではさっそくあらすじを……。
 

英米情報部の密命を帯びた米空軍パイロットのミッチェル・ガントは、ソ連が開発した最新鋭戦闘機ファイアフォックスの強奪に成功した。だが、追跡機との空中戦で被弾したファイアフォックスは燃料漏れを起こし、中立国フィンランドの凍結湖に不時着した! 消えた最新鋭戦闘機を手中に収めるべく、必死の捜索活動を展開する英米ソ連。一方、ガントはソ連軍に捕えられ、尋問のためにモスクワのKGB研究所へと送られた! (上巻のあらすじより)

 
 さて、わたしとしては“続編”というものは難しいものである、という印象があります。前作が傑作であればあるほど期待して読んでしまいますし、続編なんてなかったほうがよかったんじゃ……という思いをしたことも何度かあります。しかーし! この作品にはあてはまらず、そういう心配はいらなかったなあ、とほっとしました。むしろ『ファイアフォックス』よりおもしろい! 物語を盛り上げる要素がてんこもりで、なんというか「パンケーキ5段重ね! 季節のフルーツ山盛り! おまけの絶品生クリーム!」という感じでしたね。もうほんとおなかいっぱいになれちゃいます!
 
 まず上巻冒頭の50ページがすごい。このあたりはがっつり航空ものです。ファイアフォックスが被弾して燃料漏れを起こしてしまうという驚きの展開! そもそもタイトルが『ファイアフォックス・ダウン』ということで(原題そのままです)、あれだけすごい戦闘機が燃料切れで墜落してしまうかも、という大ピンチから物語が始まるわけです。そしてさらにソ連から追っ手も襲いかかります。もう初っ端から手に汗握る展開で、“続編を絶対に成功させてやるぜ!”という著者の気合いがものすごく伝わってきました。
 
 おまけにフィンランドに不時着してからは、追っ手から逃れるために、寒い寒い北の地でのサバイバル。KGBに捕まってからは、薬物による尋問(というか拷問だよな)との闘い。そしてKGBの研究所をなんとか抜け出してからは、変装しての逃避行、と、ピンチが実にてんこもりなのです。これだけ緊張感の途切れない小説ってなかなかないと思います。こうやって記事を書いている今も、さまざまな名シーンが脳裏に浮かんできます。とにかく濃密だったな〜。
 
『ファイアフォックス』では主人公ガントさんの内面描写というか、戦争のトラウマによる悪夢を見たり、パイロットとしてしか生きられない不器用さが魅力的だなと感じました。続編の本作ではそういう描写は薄くて、逆に危機をいかに乗り越えるかというアクション面に重きがおかれています。しかし、相変わらず人間ドラマもすばらしいんですよ!!
 
 KGBから逃げるガントさんを助けるのが、CIAの女性工作員のアンナ・アクメロヴナ。この人はいろいろあって現在はソ連に住んでいて、しかも恋人のドミトリ・プリャービンはなんとKGBの大佐なのです!! アンナは古巣のCIAからの命令でガントの窮地を救い、変装や出国の手引きをします。一方で、ドミトリはKGBからの命令で研究所から逃げ出したガントを追いかけます。ドミトリを愛しているのに、隠れて彼の敵対する組織の仕事をしなければならないアンナ。つまり彼女はガントの絶対的な味方ではないわけで、この設定が本書を劇的におもしろくしていると思います。アンナの出方次第でガントの運命は変わってしまう!
 
 わたしは小説において恋愛要素はそれほど重視しないんですが(ロマンスよりは死体が出てくるほうがうれしいですね、ハイ)。このような“展開をよりおもしろくする”恋愛描写は大好物です! お話の先が読めなくなりますし、濃密な人間ドラマが生まれています。もうね、この恋人たちの葛藤が読んでて胸にせまりました……。『ファイアフォックス』よりおもしろく感じたというのは、このアンナやドミトリの視点でも物語が語られ、登場人物たちの思惑や感情がより重層的に伝わってきたからでもあります。
 
 そうそう、忘れちゃいけないのが、ファイアフォックスの捜索をするCIAとSIS(英国秘密情報部)のひとたち。彼らの慌てふためきぶりもよかったです。特にSISのオーブリーさんがいい味出してましてね、もうほんとこの人大好き。情報部の偉い人なのに、わりと子供っぽい発言が多くて……。彼らは不時着してしまったファイアフォックスをなんとかイギリスに持ち帰るべく奮闘するのですが、さまざまな手を考えている場面がめっちゃおもしろいです。
 
 フィンランドに不時着したファイアフォックスは、ガントさんによってとんでもない所に隠されてしまい、普通には飛び立てないのです。そもそもガントさんはこの最新鋭戦闘機の機密を明らかにすべく、わざわざソ連に侵入して飛行機を盗みだしたわけです(前巻で)。それなのに目的地に着く前に不時着、パイロットのガントさんは逃亡中で不在、飛行機は飛び立てない。読者としてはピンチの連続でめちゃくちゃおもしろいですが、作中の人たちにとってはとにかくひどい状況ですね(笑)。
 
 もう、ファイアフォックスに対して、ぶち切れたオーブリーさんが言い放った言葉が最高でした。
 

「あの厄介者の飛行機が飛んでくれさえすればな!」

 
“厄介者”って!!!(爆笑) 最新鋭飛行機になんてことを! も〜、あれだけ頑張って盗みだしたガントさんがかわいそうじゃないですか。前巻からずっと「すごいすごい」言われていたファイアフォックスの評価がガタ落ちになっていて笑えました。“厄介者”がきちんと飛び立てたかどうかは、ぜひ本書を読んでお確かめください!
 
 上下巻とけっこうなボリュームのある作品ですが、とにかくおもしろかったです! 続編ですが、まあこの本からでも読めなくはない……気も。ぜひ手に取っていただければ幸いです。
  

北上次郎のひとこと】

 航空冒険小説にはさまざまなパターンがあるが、作家はそれぞれに独自の工夫と趣向を凝らしていて、これはその代表的な作例と言えるだろう。まさか続編があるとは思わなかったが、その続編がこれほど素晴らしいというのも嬉しい驚きだった。トーマスという作家のすごさがここにもある。
 

東京創元社


小柄な編集者。日々ミステリを中心に翻訳書の編集にいそしむ。好きな食べ物は駄菓子のラムネ。東東京読書会の世話人もしております。〈Webミステリーズ!〉で翻訳ミステリについて語る&おすすめ本を紹介する連載「翻訳ミステリについて思うところを書いてみた。」をはじめました。TwitterID:@little_hs
 

ファイアフォックス (ハヤカワ文庫NV)

ファイアフォックス (ハヤカワ文庫NV)

狼殺し (1979年)

狼殺し (1979年)

闇の奥へ〈上〉 (扶桑社ミステリー)

闇の奥へ〈上〉 (扶桑社ミステリー)

闇の奥へ〈下〉 (扶桑社ミステリー)

闇の奥へ〈下〉 (扶桑社ミステリー)

 

第27回『ファイアフォックス』の巻(執筆者・東京創元社S)

 
 みなさんこんにちは。
 この連載もあっという間になんと27回! いやはやびっくりです。いつもおつきあいありがとうございます。
 

ファイアフォックス (ハヤカワ文庫NV)

ファイアフォックス (ハヤカワ文庫NV)

 今回の課題書はクレイグ・トーマス『ファイアフォックス』です! クレイグ・トーマスさんの作品は第9回『狼殺し』以来になります。今読み返したら2011年の更新だったんですが、当時とほとんどテンションが変わっていなくて遠い目をしたくなりました。まあ、前置きがあんまり長くてもなんなので、さっそくあらすじのご紹介を……。
 

最高速度マッハ5以上、レーダーを無力化し、ミサイルを脳波で操るミグ31ファイアフォックス。ソ連が開発したこの最新鋭戦闘機は、西側に計り知れぬ脅威を与えた。かくてCIAとSISは、機の秘密を奪うべく大胆不敵な作戦を立案する。厳重な警戒網を突破して、ファイアフォックスを盗み出そうというのだ。任務に赴くのは、傑出した操縦技術を持つ米空軍のパイロット、ミッチェル・ガント。輸出業者に変装した彼は、単身モスクワへ潜入するが……! 驚異の戦闘機をめぐって展開する白熱の攻防戦――サスペンス溢れる冒険小説の雄篇。(本のあらすじより)

 
 はあ……おもしろかった。なんというか、読み終わったあとに本を抱えてぐったりしてしまったくらい、非常に密度が濃い小説でありました。すごい作家さんによる最高傑作といえる作品で、なんというかもう、しみじみ「おもしろかった……」と大満足でページを閉じられて、すばらしい読書時間を味わえました。
 
 もうね、冒頭からすごいんですよ。
 SIS(英国秘密情報部)の長官と特殊工作部長、そしてイギリスの首相の往復書簡からはじまるんですが、「最新鋭戦闘機〈ファイアフォックス〉がどれほどすごいか」が、手紙の文章を通してひしひしと伝わってくるのです。あらすじにあるように、〈ファイアフォックス〉ってものすごい性能を持つ戦闘機なんですが(しかし“脳波で操る”ってなんなんだ。ほんとにこういうことできるのかしら?)、その特長を地の文で単に説明するのではなく、手紙のやりとりを通して読者に伝える、という技術がとてつもなくうまいです。わたしみたいな、戦闘機とかにあまり興味のない人間からすると、単に事実の羅列のみで説明されても、そのすごさがイマイチわからないんですよ。でも、こういう風に登場人物のやりとりで語られると、もう冒頭からわくわくすることこのうえない! うん、正直「マッハ5以上が出せる」ってのがどれだけすごいか未だによくわからないんですが、それでも「〈ファイアフォックス〉すごい!!」ってときめかされてしまったのです。
 
 でもって、ストーリーが単純なのがいい。この小説って結局、ソ連に侵入して〈ファイアフォックス〉を盗んでイギリスに持ち帰るぜ! っていうだけのお話なんですよ。でもそれが、たまらなくスリリングに書かれているので、めちゃくちゃおもしろい。息詰まる展開がつづいて、月並みな言い方ですがページをめくる手がとまらなくなります。
 
 特に、物語の前半と後半で、冒険小説のふたつの要素があわさっているのがいいですね。
 前半は、〈ファイアフォックス〉を奪取するべくパイロットのミッチェル・ガントが変装してソ連に潜入するというスパイ小説的な要素が強くて、変装がばれるんじゃないかとか、ハラハラドキドキの展開が味わえます。カーチェイスまで楽しめちゃうんだぜ! ガントは常にKGBに監視されているらしく、その監視をかいぐぐったりして戦闘機を盗むところまでがやたらとスリリング! おまけにけっこうあっさりと人が死んでいくのでびっくりしました。「えっ、こんないいキャラクターをここで殺しちゃうんだ!?」みたいな、ガントの協力者的な良い感じの味方がどっしどし死んでいくんですよ。もったいない! と思いつつも、だからこそ緊張感が生み出されている気がしました。おまけに、みんな死に際がなんかかっこいいんですよね。出し惜しみしない主義なのかな、クレイグ・トーマスさん。
 
 そして主人公のミッチェル・ガント氏の“不安定さ”も、この小説を盛り上げている一因です。彼は米空軍のパイロットなんですが、ヴェトナム戦争ですさまじい目にあったらしく、悪夢にうなされて戦争のトラウマに苦しんでいます。発作がどのタイミングで起きるかわからず、〈ファイアフォックス〉盗みだし計画が順調に進んでいるようでも、いつなんどき彼の状態が危うくなるか予想できないのです。それゆえに先が読めない! 
 
 でもガント氏はパイロットとしてはすごく優秀で、というかもう「パイロットであること」しか自分にとって大事ではないんですね。自分自身というものに関心がなくて、どんな人間にも変装できてしまう。悪夢にうなされ、トラウマに苦しめられようとも、パイロットであることだけはやめられない。敵の、ソ連パイロットにもこういう風に評価されています。
 

「ガントには、ミグを盗み、持ち帰ってみせることが、生きるために必要なことなのだ」

 
 うーむ。わたしはこう、“自分にとってほんとうに善かどうかわからないけれども、それでもそれを為さずにはいられない”というような表現に弱くてですね……。なんというか、自分ではどうしようもできない運命に翻弄されつつもそこで最善をつくす、という人間に弱いのだ……。ガンツさんもね、ちゃんとカウンセリングを受けたりして、精神状態を安定させたほうがしあわせになれると思うんですよ。でもねー、彼は飛行機に乗り続けることを選んでしまうんです。たとえそれが自分を苦しめようとも、そういう風にしか生きられないから。なんという不器用な生き様……。しかしそれがいい。それがかっこいい。
 
 そして後半からは、パイロットとしてのガンツさんの技量、そして航空冒険小説感が思う存分味わえます。逃げる者と追う者の攻防! ときめきがとまらないぜ! とにかく迫力ある場面が続くうえに、精神的に不安定だったガンツさんが、戦闘機に乗った途端に落ち着きを取り戻して、“空の英雄”として本領を発揮してくれるのがうれしい。いやー、もうほんと、前半と後半で別人なんじゃないの!? というくらいのかっこよさ。特にラストシーンに訪れるとある危機について、華麗に解決してしまう姿がかっこいい! このクライマックスの「どうなっちゃうの!?」感は格別で、読み終えた瞬間に、安心のあまりしばし放心状態に陥ったくらいです。
 
 というわけでもう、わたしの駄文を読むよりいいから本を読んで! といいたくなるすごい作品でした。もうね、いっちばん最初のイェーツの詩の引用からしてね、やばいくらいかっこいいですからね、この詩だけでも読む価値ありますからね!! 未読の方はぜひ、とにかく本屋さんで手にとっていてください。これぞ冒険小説! って拳を挙げて叫んじゃうくらいおもしろい作品でした。
 

北上次郎のひとこと】

 物語の半ばに航空機奪取に成功してしまうのに、それでもスリル満点に読ませるのがすごかった。ようするに後半は、ただ延々と逃げ回る話である。にもかかわらず、ディテール満点で読ませるのがクレイグ・トーマスの芸なのである。
 

東京創元社


小柄な編集者。日々ミステリを中心に翻訳書の編集にいそしむ。好きな食べ物は駄菓子のラムネ。東東京読書会の世話人もしております。〈Webミステリーズ!〉で翻訳ミステリについて語る&おすすめ本を紹介する連載「翻訳ミステリについて思うところを書いてみた。」をはじめました。TwitterID:@little_hs
 

ファイアフォックス・ダウン〈上〉 (ハヤカワ文庫NV)

ファイアフォックス・ダウン〈上〉 (ハヤカワ文庫NV)

ファイアフォックス・ダウン〈下〉 (ハヤカワ文庫NV)

ファイアフォックス・ダウン〈下〉 (ハヤカワ文庫NV)

狼殺し (1979年)

狼殺し (1979年)

闇の奥へ〈上〉 (扶桑社ミステリー)

闇の奥へ〈上〉 (扶桑社ミステリー)

闇の奥へ〈下〉 (扶桑社ミステリー)

闇の奥へ〈下〉 (扶桑社ミステリー)

昭和残影  父のこと

昭和残影 父のこと

 

第26回『アンドロメダ病原体』の巻(執筆者・東京創元社S)

 
 みなさまこんにちは。第25回からかなり間があいてしまって申し訳ありませんが、久しぶりの「冒険小説ラムネ」をお届けいたします。もうほんと、「2月末には原稿をお送りできると思います☆」とか事務局の方にメールしていたというのに、いったいなぜ4月になってしまっているのでしょうね? 誰か教えて偉いひと!
 

 さて、今回の課題書はマイクル・クライトンアンドロメダ病原体』です。映画化もしている大ベストセラー! そしてこの連載にしては珍しいことに、なんと絶版になっていない生きている本! おまけに電子書籍まであるので気軽に読める作品です。まずはあらすじを……。
 

 事件はアリゾナ州の小さな町、人口48人のピードモントで起きた。町の住人が一夜で全滅したのだ。軍の人工衛星が町の郊外に墜落した直後のことだった。事態を重視した司令官は直ちにワイルドファイア警報の発令を要請する。宇宙からの病原体の侵入――人類絶滅の危機にもつながりかねない事件に、招集された四人の科学者たちの苦闘が始まる。戦慄の五日間を描き、著者を一躍ベストセラー作家の座に押し上げた記念碑的名作。(本のあらすじより)

 
 このあらすじを最初に読んで、なんとなく「冒険小説っぽくないなぁ」と思ったんですよ。やっぱり今まで難攻不落の山岳バトルとか、荒れ狂う海での死闘とか、とてつもないスピードのカーチェイスとか、がっつりしたものを読んできたわけじゃないですか。「あれ? これってアクションあるの? ハラハラできるのかな?」と感じてしまったんですよね。もーほんとわたし馬鹿!!!! この作品、実は今までの連載で読んできた作品の中で一番スリルを感じました。めっっっっちゃ怖かった!!!
 
 思えば、冒険小説で語られる冒険というのは、平々凡々なわたしの日常にとって、まったく縁がないものなのです。そりゃそうですよね、だって山に行かなけりゃ遭難しないし、海に入るのも嫌いだから珊瑚に襲われることもないですし、スパイになれるはずもないから国家の秘密とか握らないし。飛行機に乗っているときにミサイルが突っ込んでくる、なんてこともないでしょう。だから、わたしはのんびり生きている限り、冒険小説的な危機には遭遇しないと思うんですよ。
 
 でも本書は違うんです! 事故によって人工衛星が墜落して、それによって宇宙から持ち込まれた謎の病原菌が、人々を虐殺してしまうんです!! なにそれこわい。病原菌なんて目に見えないもの、防ぎようがないじゃないですか! うっかり新宿区新小川町の東京創元社に落っこちる可能性だってないわけじゃないですよね! 仕事中だったらわたし死んじゃいますよね!
 
 とまあ、まずは非日常的な危機がいきなり訪れる、という設定に恐怖したわけです。同時に「得体の知れないもの」の恐ろしさをすごく実感しました。なにせこの医学史に前例のない病原菌、普通ならありえないような死に方を引き起こすのです。それがめちゃくちゃ怖い! 死んでしまった町のひとたちは、寒い夜にもかかわらずなぜかほとんど外で倒れている。安らかな顔をしているが、胸を押さえたまま亡くなっているひとが多い。そして遺体を解剖してみると、信じがたい現象が起きている……。
 初めて読むひとの衝撃を減らしたくないので詳細は避けますが、こんな死に方ありえない! という設定があまりにすごくて、とても恐ろしくなりました。正直な話、恐がりのわたしは1週間ばかり本の続きが読めなくなりました……。どれくらいすごいかというのを、ぜひ読んで確かめていただきたいです(ウィキペディアクライトン氏の項目にはネタバレが載っているので見ちゃだめですよ)。
 

ブルーシティー (MF文庫)

ブルーシティー (MF文庫)

 ここで思い出したのが、星野之宣先生の傑作SF漫画ブルーシティーでした。わたくし、父の影響で星野先生の作品が大好きなんですが、『ブルーシティー』は幼心にとてつもないトラウマをもたらしたすごい作品だったのです。隕石が宇宙ステーションに衝突して、地球へと墜落してきます。その隕石には人間の身体に突然変異をもたらす宇宙病原体が付着しており……という本書と共通するあらすじなので、すさまじい恐怖を感じてしまったのも、この作品の影響があったかなあという気がします。
 
 閑話休題。また本書は、とにかくサスペンスの盛り上げ方が上手く、緊迫感がある描写がつづきます。謎の病原菌が付着した人工衛星を回収したのちは、菌の分析を行っていきます。そこで少しずつ、この菌が持つ特性が明らかになります。空気感染するが、死体からは感染しない、とか。謎の菌の正体を探っていく試みは、とてもスリリングで、上質のサスペンスを読む楽しみを味わえます。そしていわゆる「引き」がすごく上手いのです。章の終わりやちょっとしたシーンになんとなく不穏な一文を入れることで、続きが気になってしょうがない! という状況を生み出しています。まあ、こんな大ベストセラー作家さんにわたしごときがどうこういうのも失礼なんですが、こういう「引き」がしっかりある作品はやっぱり読んでいてとてもおもしろいなあと思いました。
 
 また、本書は科学者お仕事小説でもある! と断言しましょう。おまけにチーム男子もの! 細菌学者のストーン、微生物学者のレヴィット、病理学者のバートン、外科医のホールが、それぞれの得意分野を活かして、致死性の地球外微生物に挑んでいく! 根っからの文系で高校時代以降化学に触れたこともないわたしは、理系のお仕事小説としてもおもしろく読みました。実験手法の説明とか、解剖シーンとかも興味深く、理系の人々ってこんな細かいことやってるのね。器用でうらやましいな〜。とか考えていました。馴染みのない用語ばかりなのですが、それでもしっかり理解できるし、さくさく読めるのがすごいです。
 
 しかしよくよく考えてみると、この作品が出版されたのって、1969年なのです! ってことは、技術とか実験方法とか使用する機械とかは全部古いものなんですよね。科学はどんどん進歩しているわけですし。でもなんか読んでいると、「最先端のことやってそう!」な感じに思えるのです。わたしに専門的知識がほとんどないとはいえ、これって結構びっくりすることなんじゃないでしょうか。浅倉久志先生の訳者あとがきにも書いてあるのですが、理論の解説とか、図表、写真が随所に織り込まれているため、すごく今っぽいというか、リアルに感じるのだと思います。このようなノンフィクション的作法が効果を上げているから、発表から50年近く経ってもまったく古びず、多くの人々に読みつがれているのでしょう。
 
 ふう、というわけで大変ハラハラしつつも、大いに魅力を感じた1冊でした。ベストセラーというと敬遠してしまう本読みの方もいると思うのですが、ベストセラーにはベストセラーたる所以があるのだ、というのを実感できるすばらしい作品です。未読の方はぜひこの機会に読んでみてくださいませ。
 
北上次郎のひとこと】

 どの作家もそうだが、マイケル・クライトンもすべての作品が傑作というわけではない。しかし本書は、クライトンの最良の作品の一つだろう。アポロ11号が月面着陸した年に発表されたというのが、この長編の背景を語っている。すなわち、それまでの科学では解明できない生命体が宇宙から飛来する時代の到来である。そういう時代の新たなサスペンスがこの長編にはつまっている。
 

東京創元社


 小柄な編集者。日々ミステリを中心に翻訳書の編集にいそしむ。好きな食べ物は駄菓子のラムネ。2匹のフェレット飼いです。東東京読書会の世話人もしております。TwitterID:@little_hs
 

アンドロメダ病原体〔新装版〕

アンドロメダ病原体〔新装版〕

アンドロメダ・・・ [DVD]

アンドロメダ・・・ [DVD]

マイクロワールド 上 (ハヤカワ文庫NV)

マイクロワールド 上 (ハヤカワ文庫NV)

マイクロワールド 下 (ハヤカワ文庫NV)

マイクロワールド 下 (ハヤカワ文庫NV)

ジュラシック・パーク〈上〉 (ハヤカワ文庫NV)

ジュラシック・パーク〈上〉 (ハヤカワ文庫NV)

ジュラシック・パーク〈下〉 (ハヤカワ文庫NV)

ジュラシック・パーク〈下〉 (ハヤカワ文庫NV)

NEXT―ネクスト〈上〉 (ハヤカワ文庫NV)

NEXT―ネクスト〈上〉 (ハヤカワ文庫NV)

NEXT―ネクスト〈下〉 (ハヤカワ文庫NV)

NEXT―ネクスト〈下〉 (ハヤカワ文庫NV)

 

第25回『アイガー・サンクション』の巻(執筆者・東京創元社S)

 

アイガー・サンクション (河出文庫)

アイガー・サンクション (河出文庫)

 みなさまこんにちは。おひさしぶりの「冒険小説ラムネ」のお時間でございます。今回の課題は、映画化もしている傑作トレヴェニアン『アイガー・サンクション! 1985年翻訳版刊行の作品ですが、今読んでもめちゃめちゃおもしろかったです。たくさんある魅力をびしばし語っていきたいと思います。もちろん容赦ないツッコミもありますよ!
 
 さてさて、まずはあらすじを……。
 

 すぐれた登山家にして大学教授、美術鑑定家、ジョナサン・ヘムロックは、パートタイムの殺し屋である。CIIのサンクション(報復暗殺)要因として莫大な報酬を得ている――サンクションの舞台はアイガー北壁、チームを組んだ登山隊のメンバーの中に、対決しなければならない未知の目標がいる……。 ソフィスティケートされた異色のスパイ・スリラーとして絶賛を浴びた大ベストセラー。(本のあらすじより)

 
 本書を読みはじめて真っ先に感じたのが、「主人公、設定盛りすぎやな……」でした。いやだって、この原稿を書くために気になった設定や台詞には付箋を立てながら読んでいるのですが、冒頭から付箋立ちまくりですごいことになって困りましたよ! 
 
 上↑のあらすじにもあるとおり、ジョナサン・ヘムロックは登山家、大学教授、美術鑑定家、そして殺し屋なんですよ! いっぺんに並ぶって何事!? 少年時代は貧困と暴力で苦しんでいて(はい、来ました暗い過去!)、それゆえにひととして当たり前の“良心”というものを持たず、人殺しに罪悪感を覚えない冷たい眼をしています(女性は必ずこの眼にやられちゃうあたりもお約束)。とにかく女性に(一部男性にも)モテてモテて困っちゃう感じで、作中で関係した美女たちは何人にのぼるのであろうか、数えるのもめんどうになりました。
 
 また、37歳という若さで芸術学部の教授としてTVなどにも出て活躍し、優秀な美術鑑定家でもあり、同じ画家の作品は必ず見抜いてしまいます(とはいえルーベンスに関しては手こずるあたりがニヤっとします)。そんでもってマイ・ホームがなんと教会! 古い教会を買い取って改装して、ローマ風呂をそなえつけてゆっくりお風呂タイムを楽しんで、地下の隠し部屋には蒐集した数々の名画をずらっと並べているのですよ! そしてさらなる絵画を買うために、パート・タイムの暗殺業に従事している、と……。
 
 さらに、脇役も濃すぎてツッコミが追いつきません。暗殺を依頼するドラゴンさんはCIIなるアメリカの秘密機関(CIAじゃないよ)の捜索制裁部門のボスです。捜索制裁、通称SSは、CIIの人間が何者かに殺された場合、その犯人をつきとめ“制裁(サンクション)”する報復暗殺部門です。そこに君臨するユラシス・ドラゴンさんは完全な色素欠乏症で、白血球を十分に作り出せないため隔離された病室にいて、病弱ながらも絶対的なカリスマ性をそなえた迫力満点の人物です。うわーもー、このふたりのピリピリしたやりとりを読んでいるだけでおもしろいわ! 魅力的な登場人物を描けるということは、それだけでページをめくらせるのですね。いやはや。
 
 それ以外にも、ヘムロックさん家の庭師は、腕はすっごくいいのに植物に対してものすごい暴言を吐きながら仕事するし(このシーン爆笑でした)、ヘムロックさんがうっかり好きになってしまう魅惑の黒人スチュワーデスとか、もう物語中盤までのキャラクターだけでちょっとお腹いっぱい……。
 
 しかーし、トレヴェニアンさんは手を抜いてくれなかった! 次に送り込まれたのは、みんな大好き“相棒”キャラだー! ヘムロックさんのかつての山仲間、ベンジャミン・ボウマンは、気のいい森のくまさん的好人物で、ヘムロックの登山をサポートしてくれます。そう、あとで詳しく説明しますけど、この小説って山岳もの+スパイもの冒険小説なんですよ! 全然説明追いついてないけど! ボウマンさんはめっちゃいいひとで、ヘムロックが魅力たっぷりなろくでなし野郎なだけに、なごむわ〜。南米最高峰の山アコンカグアを登る際に生死をともにしたことがあり、ヘムロックさんも彼だけは信用しています。
 
 とまあ、これで主要キャラクターも最後だろう、と思っていたら、わたしはまだまだ甘かった……。なんとさらにカードを切られてしまいましたよ。次は“絶対的なライバル”キャラがきてしまったー! も、もうやめて、もうここまでくると困る! わたしはライバル設定が大好きなのよ! そんでもってこのヘムロックのライバルというのが、サンフランシスコで麻薬取引を中心とした怪しい職業についている悪い系のイケメンで、女性にモテモテで、でも本人はガチのゲイ、という……。なんなの!? トレヴェニアンさんってなんなの!? ここまで各登場人物に設定を盛り込んだこの作品、一種“昭和のライトノベルといえるんじゃないですかね……。え、違う? ダメ?
 
 さて、個性豊かな登場人物が山のように登場する、というのはわかっていただけたと思うのですが、次は冒険小説としてのすばらしさを真面目に語りたいと思います。先にも述べたように、本書は山岳冒険小説+スパイもの、というのが最大の特徴で、登攀シーンのハラハラ感と、ヘムロックが登山チームに参加して、表向きはただの登山家という顔をしつつも、裏では“制裁(サンクション)”する相手を探す、スパイものとしてのおもしろさを味わうことができます。
 
 捜索制裁部門のボス、ドラゴンさんから依頼された、おそろしく難易度の高い依頼。それはなんと、暗殺対象の詳細――名前すらわからず、唯一“アルプス登山に参加する”ことだけが判明しているというもの。しかもあの“アイガー北壁”を上る登山チームに! アイガー北壁といえば高さ1800メートル、数々の死者を出している“人喰い鬼”の異名を持つ岩壁です。本書にはクライマーと北壁の闘いの記録も書かれており、とんでもなく困難な登山だということが伝わってきます。わたくしも、ボブ・ラングレー『北壁の死闘』を読んでおりますのでね、『アイガー・サンクション』というタイトルを見た瞬間に「おお、アイガーきたー!」とわくわくしましたよ(ずいぶん訓練されました)。そしてこの登攀の際中に、“制裁(サンクション)”する対象を見つけ出し、そして殺しを実行しなくてはならない! まさにミッション・インポッシブルですよ……。
 
 登攀シーンは、短いですが迫力満点で、それだけでもう読み応えがあります。登山チームの仲間も、寒さや雪崩などでどんどんやられていきますし。ヘムロックさんも作中で、「実のところ、今度のSSの任務全体が、この山という厳粛な存在を前にして見ると、空想的なオペレッタのように現実感のないものに感じられるのだった」と嘆いています。しかし、一読者であるわたしからすると、この“制裁(サンクション)”という任務があるからこそ、本書はよりおもしろくなっていると思うのですよ。つまり、暗殺対象は誰なのか? という謎で読者をひっぱっていくために、息つく暇なく最後まで読めてしまうのです。ふたつの要素があわさって、より豊かなものになる。本当にすばらしいエンターテインメントだなぁ、と感じました。
 
 というわけで、さすが名作! という当たり前の事実を味わえた楽しい読書ができました。文句なしにいい小説ですので、どうぞ手にとってみてくださいまし。
 
*「スチュワーデス」は作中の表記にあわせました。
 

北上次郎のひとこと】

 トレヴェニアン『アイガー・サンクション』は、ボブ・ラングレー『北壁の死闘』に並ぶ山岳冒険小説の傑作である。山岳冒険小説は少なく、ロナルド・ハーディ『ジャラナスの顔』、アンドリュウ・ガーヴ『諜報作戦/D13峰登頂』ハモンド・イネス『孤独なスキーヤーとあるものの、海洋冒険小説の紹介に比べ、遅れている感は免れない。とても残念である。
 

東京創元社


 小柄な編集者。日々ミステリを中心に翻訳書の編集にいそしむ。好きな食べ物は駄菓子のラムネ。2匹のフェレット飼いです。東東京読書会の世話人もしております。TwitterID:@little_hs
 

北壁の死闘 (創元推理文庫) (創元ノヴェルズ)

北壁の死闘 (創元推理文庫) (創元ノヴェルズ)

ジャラナスの顔 (1978年) (ハヤカワ・ノヴェルズ)

ジャラナスの顔 (1978年) (ハヤカワ・ノヴェルズ)

諜報作戦/D13峰登頂 (創元推理文庫)

諜報作戦/D13峰登頂 (創元推理文庫)

孤独なスキーヤー (ハヤカワ文庫 NV 51)

孤独なスキーヤー (ハヤカワ文庫 NV 51)

孤独なスキーヤー

孤独なスキーヤー

 

第24回『アラスカ戦線』の巻(執筆者・東京創元社S)

 
 みなさまこんにちは。梅雨ですね〜。じめじめしてますね〜。なんとなくだるくなってやる気が起きにくい時期ですが、今回の課題本はそんな気持ちをばーんと吹き飛ばしちゃうような、超! 超! 超! おもしろい作品です!
 

アラスカ戦線 (ハヤカワ文庫 NV 22)

アラスカ戦線 (ハヤカワ文庫 NV 22)

 
 さてそんな課題は、ハンス・オットー・マイスナーの『アラスカ戦線』です。まずはあらすじを……。
 

1944年、日本軍は占領地アッツ島に大規模な飛行場を建設し、米本土を爆撃する作戦を進めていた。だが、爆撃機の通るアラスカ上空は天候が不順で、出撃には多大な危険が伴っていた。かくて日高大尉ら11名の精鋭はアラスカの原野に降下し、正確な気象情報を送る任務につく。が、この動きを米軍が察知、ゲリラ戦のプロ14名を送り込んできた。苛酷な大自然の中で知力、体力の限りを尽くして戦う男たちを描く戦争冒険小説の名作(本のあらすじより)

 
 このあらすじを読んで、なんかちょっと困ったなぁ、と思ったんですよ。やはり日本国民としては、戦争小説で日本人が出てくる(しかも主人公っぽい)作品って、いろいろなことを考えてしまって読みにくいかも、と。おまけに太平洋戦争が舞台、日本軍が爆撃しようとしているし……。でもま、そんな浅慮は読み始めたらふっとびました。理由はいろいろあるのですが、まずは著者がドイツ人で、日本側とアメリカ側、どちらにも肩入れできるような中立な視点で書いています。さらに、戦争責任とか、イデオロギーとか政治的なことではなく、純粋に戦う男たちの姿を描くのをテーマとしていること。戦争というのは愚の骨頂だと思うし、戦争を賛美する作品は好みませんが、この作品は「そこで戦っていたひとたちはただ必死で生きていたのだ」ということを描いているので、すばらしい小説だと感じました。
 
 なので、あまり構えず爽やかな冒険小説だと思って読むのがいいと思います。そしてこの作品はダブル主人公ものというか、「ライバルもの」として実にいい物語なのです。ライバルものいいですよね〜。第12回『エニグマ奇襲指令』のときも興奮しましたが、本書はそれを上回るおもしろさのような気がします。おまけに日本側とアメリカ側の視点が交互に書かれていて、お互いの戦略とか騙し合いがきっちりわかるのもすごくいいです。日本側の作戦に「おおっ!」と思ったら、次の章でアメリカ側に「こう対処したのか!」と驚く感じです。プロフェッショナル同士の戦いってほんとーに興奮しますね。あと精鋭VS精鋭で、それぞれの部隊のキャラクターがきちんと立っているのもスバラシイ。
 
 とはいえ登場人物全員を紹介してはいられないので、メインのふたりを。まずは日本側の日高遠三大尉。先祖は武士で、親子代々軍人の家系です。オリンピックの十種競技(十種の競技を行ってその記録を得点に換算し、合計で競う陸上競技のこと)で銀メダルを獲得するほどスポーツ万能。英語も話せて、なにより少年時代から荒野の生活を好み樺太などで生活しており、アラスカの過酷な自然でも任務をやり遂げられる! と判断され、作戦に選ばれました。いやはや、ドイツ人が書いたとは思えないほど“The 武士!”って感じのひとです。彼がリーダーとなり、アラスカの大地で狩りや野営をしながら、気象情報を通信機で伝える、という大事な任務を遂行していきます。
 
 対するアメリカ側のリーダーは、自然と動物を愛するアラスカの自然保護局の役人、アラン・マックルイア。彼は森林生活と狩りの名手で、運良く兵役を逃れていたのに、その腕と頭脳を見込まれて無理矢理任務にかり出されてしまいます。最初は軍のやり口に嫌がっていたものの、根っからの狩人である彼は、日本軍の精鋭を探し出して捕らえるという、いわば“人間狩り”に興味を抱きます。そしてアラスカを知り尽くしているゲリラ戦のプロを引き連れて、日高大尉率いる日本に挑んでいくわけです。
 
 いやー、この設定だけでご飯何杯もいけますね! 両サイドがだんだん近づいていって、野営の跡とか動物たちの変化を元に居場所を見抜き、戦闘になっちゃったりするなんて! さらに足跡の隠し方ひとつで相手側の力量を知るとか、敵でありながらお互いにリスペクトしているというプロ同士の戦闘! ほんとにすばらしいです。手に汗握って読めます。
 
 そして敵は人間だけではない! というのも本書の醍醐味。冒険小説の魅力のひとつである、VS自然ですね。熊とかウォルヴリン(ウルヴァリン、クズリのことと思われます)などの野生動物や、ブリザード。とてつもない自然の驚異が襲い来る! それは日本側アメリカ側両サイドどちらにもなわけで、やっぱり最も恐ろしいのは自然だなぁ、と思いました。そして狩猟生活のやり方が細々と書かれていて、それがすごく新鮮でおもしろいです! 雪に埋もれた草木も生えない土地で、氷を磨いてレンズの代わりにして太陽光で火をおこすとか、なんかもうすごい技術がいっぱい! この作品は著者が6か月間実際にアラスカで狩猟生活を行って、その体験を元に執筆されたそうですが、サバイバルの手引き書としても一級品なんじゃないでしょうか。自然の厳しさを描くと同時に、美しさにも触れているところが印象的でした。ときどき、動物や草木、雪の大地を描写するはっとするように美しい文章があって、著者の愛を感じました。でもアラスカにはぜったいに住めないけど!
 
 そんでもって最後どうなるのかなーと思っていたら、どんでん返しの連続ですよ、もう。このオチはぜったいに予測不可能! 「ちょっ、嘘、待って、えっまじでほんとに!?」みたいな。男たちの勇敢な戦いと魅力的な風景描写のあとには、さらにぐっとくるラストシーンが待ちかまえていますぜ。
 
 と、いうわけで非常におもしろい作品だったということがすこしでも伝わるといいのですが。1972年の翻訳とあって差別語のオンパレード(汗)、かつ人物名の表記とかもぶれぶれでいろいろ気になるところはありますが、翻訳自体はたいへん読みやすいです。ぜひご一読くださいませ!
 
 

北上次郎のひとこと】

 この翻訳は1972年に刊行されたが、2000年の読者アンケートで復刊フェアの1冊に選ばれたとあってびっくり。そんなに人気のある冒険小説だとは思ってもいなかった。もっとマイナーな作品だと思っていたのだ。
 

東京創元社


 小柄な編集者。日々ミステリを中心に翻訳書の編集にいそしむ。好きな食べ物は駄菓子のラムネ。2匹のフェレット飼いです。東東京読書会の世話人もしております。TwitterID:@little_hs
 

エニグマ奇襲指令 (ハヤカワ文庫 NV 234)

エニグマ奇襲指令 (ハヤカワ文庫 NV 234)

 

第23回『A-10奪還チーム出動せよ』の巻(執筆者・東京創元社S)

 
 みなさんこんにちは。お久しぶりの「冒険小説ラムネ」です。ほんとうにお久しぶりで、原稿の取り立てをしてくださっている事務局の方にスライディング土下座! という感じですが、今回も楽しく読んでいただけますと幸いです。
 

A‐10奪還チーム出動せよ (ハヤカワ文庫 NV ト)

A‐10奪還チーム出動せよ (ハヤカワ文庫 NV ト)

 さて肝心の課題書はティーヴン・L・トンプスン『A-10奪還チーム出動せよ』。まずはあらすじを……
 

冷戦下のドイツ。アメリカの最新鋭攻撃機A-10Fが演習中にミグ25 に襲撃され、東ドイツ領内に不時着した。A-10Fにはパイロットと機を一体化させる極秘装置が搭載されていた。現場に赴いたアメリカ軍事連絡部〈奪還チーム〉のマックス・モスは装置を回収する。が、高度にチューンナップされた彼のフォードを、東ドイツ人民警察のBMW、ベンツとソ連攻撃ヘリが追ってきた。緊迫のカーチェイスを描く冒険小説の名作。(本のあらすじより)

 
 この作品の魅力は、ずばりカーチェイス 月並みな表現で恐縮ですが、まさに手に汗握る描写が続いて、はらはらしっぱなしでした。カーチェイスって映画とかドラマでも見慣れている分、小説だとちょっと物足りないかも? と不安でしたが、あらすじを読んで期待していた以上におもしろかったです。
 
 それもそのはず、著者のトンプスンさんは数々の国際レースで活躍した経験を持つ、本物のレーシング・ドライバーだったのです。しかも引退後は自動車専門誌で記者&編集者をしていたこともあるそうで、納得の筆力でした。とにかく臨場感がすごい! 時速200キロ近い猛スピードで疾走する車の振動が、そのまま伝わってくるような熱い描写ばかり。さらにドリフトのシーンや車同士の接触の瞬間の衝撃なども見事に描かれていて堪能しました。カーチェイスって自分でもなんとなく想像がつきやすいというか、船とか飛行機の操縦より馴染みがある分、よりリアルなんですよね。いやー、ばりっばりのペーパードライバーで、かつて仮免の技能試験に2回も落ちたあげく、高速教習であまりの怖さに泣きそうになった私なんかにしてみれば、絶っっっ対に真似できないウルトラ・テクニックばかりでした……。
 
 さて、そもそもなんで東ドイツ人民警察やソ連攻撃ヘリに追いかけられるという絶対絶命のカーチェイスをしなくてはならない羽目に陥ったのか? というところに戻りましょう。主人公のマックス・モスはアメリカ空軍の兵隊でした。除隊まであとひと月というとき、いきなり〈奪還チーム〉のメンバーに抜擢されます。これは「東ドイツに不時着した極秘の新型機A-10Fのパイロットと、脳波誘導装置“ジーザス・ボックス”を回収する」という役目を担うチームのことです。
 冷戦下に“米軍兵が東ドイツソ連軍や東ドイツ人民警察を相手に熾烈なカーチェイスを繰り広げる”という、当時の状況を考えるととんでもない設定です。これが冒険小説としていかに偉大なアイディアで、いかに現実の政治背景などを反映していたかについては、訳者あとがきと関口苑生さんのすばらしい解説に詳しく書かれていますので、そちらをご参照くださいね(自分で説明する気力と能力がないので……)。
 まぁでも、なんか“奪還する”っていうだけでかっこいい感じですよね!! こういう魅力的な設定や舞台を生み出せるかどうかに、冒険小説としてのおもしろさがかかっているのだなぁと思います。
 
 というわけで冒険小説ならではのアクション・シーンと、それを支える舞台設定のすばらしさに触れましたが、この作品の魅力はそれだけではない! 多種多彩なキャラクターと、彼らが繰り広げる人間ドラマも読みごたえがあるのです。
 
 実はちょっと、冒頭が読みにくかったんですよ。なぜなら、わりと登場人物が多くて、しかも視点人物がころころ変わるので物語の構造を把握するまで時間がかかりました。しかし、主役のマックス・モスが登場したあたりから、俄然おもしろくなってきまして、あとは一気読み! このマックスくんが、私の好みのキャラクターというか、またしても「コンプレックス持ちハイスペック男子」でして……。アメリカ空軍の兵士で、とてつもない運転技術を持ち、ドイツ語とロシア語が堪能で、おまけにわりとイケメンなのに! なのに、なんでお父さんとそんなに仲悪いかな?
 
 マックスくんはカリフォルニア大学のバークレー校(名門です!)をトップの成績で卒業したにもかかわらず、“高卒”として空軍に入隊します。学生時代にはレーサーとして活躍し、いい成績も残していました。彼の父親は陸軍の退役軍人で、シリコンバレーで大きな電子機器の工場を経営しています。かつて少将だった父は大統領や上院議員たちとも親しく、マックスは“偉大な父”に対してコンプレックスを抱え続けている……。そもそもマックスくんが空軍に入隊したのだって、“父親が陸軍だったから”というしょーもない理由ですからね! 子どもか! とはいえこういう屈折したキャラクターは嫌いじゃないんだぜ。むしろどんとこいなんだぜ! さらに彼が、自分のことを幼稚だと自覚しているのもいいですね〜。あくまで個人的な趣味で恐縮ですが……。
 
 本書にいい感じのスパイスを加えているのが、このマックスくんのコンプレックスと、それをいかに解消するかに人間ドラマのほとんどが割かれている点ですね。ふつう、冒険小説だと綺麗で強い女性が出てきて、主人公とのロマンスが重要になると思うのですが、この作品には女性の影がほとんどないのです。主人公の成長物語として読める体裁になっていて、そこが新鮮でした。あとマックスくんのお父さんがなかなか出てこないなぁと思っていたら、最後においしいところを持っていって、それもニヤリという感じでした。息子と父親の関係というのは、女である自分からみるとちょっと独特でおもしろいです。
 
 というわけで、いろいろな意味で読みごたえのある小説でしたが、唯一の不満が。タイトルに“チーム”とあるのに、正確にはチーム小説じゃないのはなんでだー! 新人がチームに入って、最初は古株のメンバーと対立して、でも数々の事件に立ち向かっていくうちに少しずつ確執がなくなっていって、最後は絶対絶命のピンチに命をあずけあっちゃったりする、そういう“チーム男子”小説が読みたかったんじゃー!! ……でも期待とは違かったけどおもしろかったです……。みなさんもぜひ読んでみてくださいませ!
 

北上次郎のひとこと】

 このシリーズは4作まで翻訳されたが、第1作である本書の出来をついに超えることは出来なかった。都合よく何度も、緊張感あふれるものが空から落ちてくるには無理があるのだろう。残念ながら、トンプスンは「1作だけ傑作を残す冒険小説作家」なのである。


東京創元社


 小柄な編集者。日々ミステリを中心に翻訳書の編集にいそしむ。好きな食べ物は駄菓子のラムネ。2匹のフェレット飼いです。東東京読書会の世話人もしております。TwitterID:@little_hs
 

サムソン奪還指令 (新潮文庫)

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鉄血作戦を阻止せよ (新潮文庫―奪還チームシリーズ)

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上空からの脅迫 (新潮文庫)

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